すべての花へそして君へ①
俺を挟んで惚気るんじゃねえ
「オレンジも葵関連だったのか。いきなり染めた時はとち狂ったのかと思ったけど」
「ツバサには言われたくない」
そりゃそうだろうな。まあその辺も含めて兄弟だな。
(随分変わったな……)
四年前っつったら、中学上がったくらい。もう別居してたから、こいつがいきなり派手な頭で登校してきた時はどうしようかと思ったけど……。
(それは向こうも同じだろうな)
俺が女の恰好をし始めた時、何も言わなかったけどこいつも俺と同じようなことを思っていたんだろう。けど、今の日向はその頃とは随分違って見えた。髪型……? ちょっと切ったのか。いやでも、たいして変わってねえし……。
(やっぱり歳食ったからか。つっても四年だけど)
ただでさえ大人っぽかった奴が、四年経って、それから髪色変えただけでこんなに変わるもんか。……ま。そこは流石俺の弟と言ったところか。
「でもやっぱり落ち着くな。どっちの色でも似合ってたけど、そっちの方が頭がだいぶよく見える。バカっぽくはないな」
「……ねえ。それいろんな人に言われるんだけど。オレンジってそんなにバカっぽく見えるの」
「まあ不良には見えるな。遠目からだったら」
「一生不良にはなれないね」
「授業中爆睡してる奴がよく言うよ」
「それだけで不良とか言うんだったら、世の中にはごまんといる」
……そういえば。さっきから全然声聞いてねえけど葵は? いる? いますいます。ちゃんと、俺の隣に。
「どうした――」
俺と同じく、すっかり黙り込んでいる……というよりは、完全に固まってしまっている葵に気が付いた日向が、首を傾けながらそう声をかけるけど。
「……、の」
目にも留まらぬ速さで、とはまさにこのこと。全然見えなかった。そして今は、俺の視界から完全に葵の姿が消えている。
「……え。どうしたの。ほんとに浮気?」
「んなわけねえだろ」
日向の言葉を最後まで聞かず。というか、日向が首を傾けはじめた辺りからもう動いてたんだろうけど、葵は俺の後ろに隠れていた。日向と目すら合わさなかったんじゃねえか、こいつ……。
「え。なに。やっぱりツバサがいいとか言わないでよ? ごめんけど、逃げようものならもう地獄の果てまで追いかけるよ?」
「怖えよ」
「ツバサに言ってない」
しかもこいつはこいつで……はあ。なんで俺、こいつらの間に挟まれてんだろ。