すべての花へそして君へ①

さすがに怖くて逃げると思う


(がたつき半端ないな。どれだけ立ち上がり悪いピッチャーなんだか……)


 まあそれは、マウンドに立つ前からわかっていたことだ。しょうがない。
 あれからレンくんは、しばらく泣き続け、泣き止んだ頃には目が赤く腫れていた。泣き止むまでずっと、『嬉し泣きだから』って。そう言ってくれた。


(みんなやさしいよね、ほんと)


 でも、きっとコーチが用意してくれてたのはここまでだ。恐らくだけど。


(それに頼るのは、もうやめよう)


 自分がしたい配球でいい。子どものままは、もうやめよう。


(……自分が、したい配球……)


 泣いてしまった彼は、今日はもう部屋で休むらしい。それを見送ったあと、今からどうしようかと悩んでいた。
 取り敢えずは、会場へと戻ってみようと思って足を進めたけど。その途中でよくよく見知った大きな人影が、自分の用意された部屋に入ろうとしているのを発見。


(……っ、やっぱり、ちゃんと言っておきたいっ!)


 こんなもやもやしたままなのは嫌だ。子どものままなのは、もっと嫌だ。
 見つけた彼が部屋の中に入ってしまう前に。わたしは大きな声を出して駆け出した。


 ✿


「つばさくううううぅぅぅぅん!!!!」

「――!?!?」


 部屋に入ろうとした俺を、奇声を上げながら、ものすごい勢いの何かが突撃してきた。


(なんだなんだなんだあああー!?!?)


 本気で怖かった▼
 だから、慌てて部屋に入って扉を閉めようとしたんだけれど。


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