すべての花へそして君へ①
…………………………よっわ
「へえ。それで?」
あれから、あんなことを言った自分が無性に恥ずかしくなり、腹を満たして忘れようとしていたオレは、料理を堪能していた。そんなところに、三番バッターから連絡が来た。そして、そういえばオレは、こいつを踏み潰す予定だったと思い出す。
今回ばっかりはいいタイミングだ。毒は……まあ入れられなかったから、恥ずかしさもこいつにぶつけてやろう。そうしよう。それで、そいつの部屋に入ったんだけど、瞬時に何があったのか、なんとなくわかってしまった。
「泣きすぎて頭痛くなって、ここまで付き添ってもらったわけ。よっわ」
「しょうがない。泣かす、あおいさんが悪い」
「えー。もーさ、いい加減に泣き止んでよ」
「お前の顔見たら今度は悔しくて涙が出てきた」
「え。帰ろっか? じゃあ」
腰を上げようとしたら、服の裾をガッチリと掴まれていて中途半端に止まる。
「おい、手離せ。オレの服掴んでいいのはあいつだけなんだよ」
「あおいさんんんー……」
(また泣き始めたし……)
こんなやりとりを何度したか。
レンはというと、目元をタオルで冷やした挙げ句、ベッドへ横になっている。……どんだけ頭痛いんだよ。
「ねえ。オレ必要なくない? 寝てなよ。ていうかなんで呼んだの。ほんと好きだね、オレのこと」
返事が返ってこない。……これは相当お疲れのようだ。
「……呼んだ、のは。報告だ」
「あ。ちょっと元気になったね」
「茶化すな」
(別に、茶化したつもり全然なかったのに)
レンは目元のタオルを外し、ゆっくりと体を起き上がらせた。
「オレは今、猛烈に幸せだ」
「は? ……あ。そうですか」
「あおいさんにお友達認定された」
「……そうですか」
いや多分、前からそうだと思うけど。
(まあこいつには、柵があったからね)
それがなくなるまで、あいつとはその関係にすらなれないと、勝手に線引きでもしていたんだろう。
「それから、もう知ってると思うから言うが」
「ん?」
「あおいさんは三番バッターがオレだってことも知ってた」
「推測したんだろうね。オレが次に選ぶのはレンだと思ったんでしょ」
勘が良い。頭が良いあいつなら。オレが考えてた行動なんて、あっという間に予測できるんだろうし。
「別に文句があるわけじゃない。ただ、理由はきちんと聞いておきたい」
「ん? レンが言いやすかったから、オレが」
「ほ、他に理由は……」
「ないね」