すべての花へそして君へ①
いや、この状況でそう来る?
(……つばさくん)
今はまだ、自分の腕の中で静かに泣いていた。腕の中と言うよりはお腹の上でだけど。
腰に回された腕も、一向に緩む気配はなかった。……でも、今はそうさせてあげたい。
(教えてくれて、ありがとう、つばさくん)
今は、兄でも何でもない。ただのツバサくんだ。
ヒナタくんから、兄の話を聞いてずっと思ってた。ああ、この人はいろいろ我慢をしてきたんだろう。しっかりしないと。壊れた家族を、自分が支えないと。……そう、思っていたのだろうと。
「……ほんと。頑張りすぎだ。つばさくんは」
零した言葉に返事をするように。しがみつくように回された腕に、また力が入った。
そんな彼の頭を撫でていたら、音もなく弟がすっと脇に立つ。
┌ ┐
だいじょうぶ?
└ ┘
明るい画面に映された文字。ひらがなのせいか。彼がどれだけ心配しているのか、表情を見なくてもなんとなくわかる気がした。
恐らくツバサくんは、視界も耳もちょっと塞がっていたから、ヒナタくんが来たことには気が付いていないだろう。その文字には、小さく頷いておく。
彼は少し安心したのか、小さく息を落とす。
┌ ┐
ツバサ なんて?
└ ┘
いやあなた、この状況でそんな質問をしますか? 出てきそうになった動揺を、慌てて飲み込みましたよわたし。……まあ、それだけ彼も心配しているんだろうけど。
取り敢えず、小さく笑っておくだけにした。彼も心配なのは十分わかってるけど、わたしにだけ言ってくれたツバサくんの想いも、わかって欲しかったから。
でも彼はそれで理解したようだ。『お疲れ』と口を動かしたあと、頭をポンポンされた。……けど。
(わたしは……何もしてあげられないよ)
ただ、話を聞いてあげるだけだ。ツバサくんの想いには応えられないんだ。それは彼もわかってるんだろう。
(でもね、それでも進まないといけないんだ)
ツバサくんも。そして……わたし自身も。