すべての花へそして君へ①

ヌードは流石に刺激が強いよ


 月を見上げていた彼女に、そう声をかける。


「え……?!」


 そこまでおれは、彼女を驚かせるようなことを言ったのだろうか。
 気のせいかも知れないけど、こちらを振り向いた彼女は、驚きの中に不安を抱えてるような気がした。ただ、そんな気がしただけ。


「あ~おいチャンっ」

「……あかね。くん……」

「うんっ! 改めて。……おかえりっ」


 会場に彼女が帰ってきた時にも言ったけど。おれから直接言いたかったから、もう一度そう言った。本当に、帰ってきたんだと。おれが実感したかっただけなんだけど……。


「……っ。あがねぐんっ」

「ええ!? な、なんで泣くのっ!?」


 何故かいきなり、ぼろぼろ泣き出してしまった彼女に慌てて駆け寄って、急いで涙を拭いてあげた。


「だ……。だだいまっ」

「……うん。おかえりっ」


 ひとまずはあおいチャンが落ち着くまで、彼女の背中を撫でてあげることにしようっ。


「……何が、夢みたいだったの?」


 落ち着いた頃、聞いてみることに。でも、なんとなくその答えはわかってた。


「ん? ……こうして、幸せを噛み締めてることが、かな」

「……そっかあ」


 たくさんつらいことがあったんだろう。話で聞いてはいても、どれだけ彼女が傷付いたのかは計り知れない。


「あ。あおいチャン、お母さんとお茶の約束した?」

「あ! まだだった! 言おうと思ってたのに~」


 今でも信じられない。
 父と祖父の事件に、彼女が関わっていたなんて。やさしすぎる彼女は、どれだけ傷付いたんだろう。


「……あおいチャン」

「……? どうしたの?」


 そんな彼女を、どうして早く助けてあげられなかったんだろう。やっぱり悔しいよ。悔しすぎる。


「たくさんたくさん、しんどかったね」

「あかね、くん……」


 でも彼女がおれに、そんな思いを持って欲しくないことくらい知ってる。……もう、十分すぎるほど。


「あおいチャンが、こうして帰ってきてくれて、本当によかった」

「……うんっ」

「あおいチャンが、また笑ってくれて……。嬉しいっ」

「……うん! ありがとうっ」

「今度はさ、道場に遊びに来ない? 一緒に受けてみるのも楽しそう!」

「おおそうだね! 行ってみようかな?」

「あ! あとさ、アトリエにもまた来てよー。あおいチャンをモデルにして、絵を描いてみたいんだ~」

「も、モデル!? ……う~ん。そうだなあ」

「だめかなあ?」

「……うん! モデルとかってちょっと恥ずかしいけど、アカネくんは特別ね! ヌードじゃなければっ!」

「ぶはっ!」

「え……。ぬ、ヌードだったのか……」

「そっ、そんなわけないでしょっ!?」

「あ、アカネくん顔赤いし。……おいコラ。何を想像したんだ、エッチ」

「!? あっ、あおいチャンがそんなこと言うからでしょっ?!」

「あ。また赤くなった。……想像したんでしょ。むっつりさん」

「……!? あ……。あおいチャンっ。もう、やめてっ!」


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