すべての花へそして君へ①
人の黒歴史は内緒にしなきゃ
「あいつ、すんげえ性格ひん曲がってんだよ」
「ははっ。……うん。そうだね?」
「すんげーぞ? お前知んないだろうけど」
「いや、それがですよチカさんや」
「な、なんだよ」
「なんとなんと、あのぶきっちょな彼が、おぎゃーから今日までのことを逐一話してくれたんっすよ」
「おいマジか。お前、やっぱりただもんじゃねえんだな」
「どこで判断したんだよ」
「あれだ。あいつを意のままに操る感じのとこだ」
「操れたらこんな面倒臭い話になってないよ」
「おう。それもそうだな」
「うむ。……話をね、してくれたの。自分のことだけじゃない、みんなのことも」
「……そっか」
その話にはきっと、オレの親のこともあったんだろうな。
「チカくんが小5までおねしょしてたとか」
「は?」
「初キスの相手がフジカさんだ、とか」
「はあ!? ちょ、おい。なんでそんなこと言うんだよ……」
一番言いたくない奴に黒歴史バレてるし。浮かれてんじゃねえぞ。後でしばく……のは、何倍返しにもなりそうだから、我慢するしかねえか。
「大丈夫。わたしがビシッと言ってあげるからね!」
「お、おう。頼むわ」
そうか。何かあったらこいつに頼めば……いやいや、そうしてもやっぱり勝つのあいつだろ。うん。我慢するしかねえ。
「……今度、ね? チカくんのお家、行ってもいい?」
不安げな声に、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚になる。
「……当たり前だ。つか来るのが遅え」
「……ごめん」
「バーカ。大歓迎だっつってんだ。もっと早くに来てたら、そのまま襲ってたってだけの話」
「……。ありがとう。ちかくん」
「……なんだよ。襲って欲しかったのか?」
答えはわかってる。何に謝ってるのか、何に礼を言っているのかも。
「トウヤさんとスミレさんに、……会いたいっ」
「おう。どこへでも連れてってやるよ」
確かに、恨んでない……とは言えない。でも、それはこいつにじゃない。それに、恨んでるからってオレは仕返しなんてしようとは考えない。
「二人の分まで、ばばあをしっかり長生きさせんだよ」
「ちかくん」
「二人の分まで、オレもしっかり生きる。二人の分まで、オレは絶対幸せになる」
「……うん」
オレが望むのは、これだけだ。ばばあとオレと、……それから。
「二人の分まで、お前がしっかり生きろ。幸せになれ。オレがそう言うんだから、二人も絶対そう思ってっから」
「っ、うんっ」
こいつとあのひん曲がり野郎が、幸せになることだ。