すべての花へそして君へ①
「……いいえ。わたしの知る限りでは。彼は聞いては来なかったんです。名前に関する情報は、わたしが口にすると時間が短くなるのではないかと恐れていたので」
「そうだったのか。いや、彼なら見つけられそうなものなのにな、と思っていたんだ。そういうことがあったんだね」
「はい。……ほんと、主人思いのやさしい執事さんでした」
「そうだね。でも、今は友達思いのやさしい友達、かな?」
結ばれた左手首の黄色のリボンを見て、そう言ったんだろう。それをぎゅっと掴み、絞り出すように「はいっ」と声にした。
そんなわたしに小さく笑ったあと、彼はもう一度頭に触れた。
「楽しみにしてるよ。君が卒業式に何を選ぶのか」
「……!! ……はいっ」
頭をひと撫でしたあと、会場へと繋がってはいない道を歩いていく彼の背中を、見えなくなるまでわたしは見送った。
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(聞きたいことは、ひとつだけ……か)
勘の良い彼女のことだから、てっきりもう一つくらい聞いてくると思ったけれど。
(気付いてないのか。それとも敢えて何も言わないのか……)
それについては、またいずれ。……ということになるかな。
「さあて。私も、するべきことをしなくてはね」