すべての花へそして君へ①

「……将来、なりたいものがあるんです。ずっとずっと、なりたいって思ってたものです」


 顔に温かいタオルが掛けられているから、カオルが今、どんな表情で話しているのかはわからない。けれど、その『好きなこと』の手が止まっているんだから、きっといい表情ではないんだろう。


「先生は好きです。でも、先生の邪魔にはなりたくない」

「なんで邪魔なんて思うの」

「彼女の仕事には、ぼくは、……邪魔だからです」

「カオル……」


 自分に、彼女の想いが傾きつつあることを知らない彼は、すごく苦しそうに言葉を続けた。


「好きだからこそ、応援したいんです。……先生は、ぼくのことなんとも思っていませんし」


 そんなことないよって。言ってあげるべきなのかどうなのか。その判断が付かなかったオレは、その言葉を飲み込んでしまった。
 だからオレは、そう言えない分違う言葉を選んだ。


「なりたかったなら、なればいい」

「……はい。そのつもりです」

「欲しいなら欲しがればいい」

「……え」


 こいつが、先生が、どうするのかはわからないけど。……でも。手を差し伸べるべきところは、二人の間を繋ぐことじゃない。


「カオルがどうしたいかでしょ」

「……ぼくは」

「先生が、どうしたいかでしょ」

「……え」

「邪魔だなんて、聞いてもないのになんでそう言いきれるの」

「……ですが」


 あのカオルが、こんなにも苦しそうに悩んでいる。……両方とも大事だから。どちらかを選ぶのは嫌だから。だったらもう、解決は一つしかないじゃん。


「美容師にもなって。コズエ先生も捕まえればいい」

「……!!」

「それが、カオルが将来一番したいことでしょ?」

「……九条さん」


 選べないなら、両方とも選べばいいんだよ。今までのオレなら、きっとこんなこと思わなかったんだろうけど。


「……九条さんの、将来なりたいものは?」

「……オレも、ずっとなりたいと思ってたことがあるよ」


 たった、ひとつだけ。


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