すべての花へそして君へ②

君が甘くなくなるまで


「朝日向なんか継がずに桐生になってよ葵ちゃん」

「なんかそれ、定番みたいになってますよね嫌です」

「でもでもっ! もう別に関係ないんだよね?」

「前は前でありましたけど、今も大アリですよ海までぶん投げましょうか」


 そしたら思いっ切り顔を引き攣らせるもんだから、おかしくて思い切り噴き出してしまった。


「へっ、変な顔……!」

「だいぶ失礼だね」

「はじめはイケメンの最強魔王様でしたが、今の方が全然いいですっ」

「なにそれ。イケメンじゃないみたいじゃん」

「いえいえ。イケメンさんに変わりはないですけど、空気がはじめの頃に比べてやわらかくなったので」

「そりゃ。初めて会った人に手の内なんて見せないでしょ」

「警戒心強っ」

「まあね。あの頃は、気付かれるわけにはいかなかったからね」

「気付いちゃってごめんなさい?」

「え? ……ははっ。ううん。ありがとうだよ。さっきも言ったけど」


 ほら。また空気が、ふわんってなった。クールでイケメンよりも、わたしはこっちの方が好きだなあ。


「トーマさん。これからのこと、一生懸命考えてくれてありがとうございます」

「そりゃもちろん。恩人ですから。お友達ですから」


「ははっ。そっかそっかー。わたしも、トーマさんのこれから、すっごい応援してます」

「……うん。ありがと」


 すっと細められる目元にすっかり下がった眉尻。


「……? どうかした?」

「ふふ。……いいえ。なんでもないですっ」


 初めて会った時には、こんなやさしい表情をする人だなんて、到底予想もしなかっただろうな。


「トーマさん、さっきの話なんですけど」

「ん?」


 きっと、彼の中では区切りがついていたんだろう。そう言うときょとんとされてしまった。


「あの。……わたし、すごく恵まれてると思うんです」


 もしわたしが普通の、本当に普通の一般人だったら、跡を継ぐとかそんな話はまずない。だから、誰しもができることじゃない。そういうことも、わたしはチャレンジしたいなって思うから。


「葵ちゃん……」


 まだ、どうなるかなんてことはわからない。それでも、選択が狭まる……なんてことは絶対にないと思う。もし、そうなったとしても、そこでできることを考えればいいだけの話だ。そこだからできないことだって、もちろんあるんだから。


「だからわたしは、この先どの道を選んだとしても。自分で幸せ、掴みにいきますよ」


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