すべての花へそして君へ②
言葉に困っているトーマさん。これはまあ、珍しい。
「……安心、するかも知れないけどさ。可能性が狭まるでしょ?」
「そうですね」
「葵ちゃんが納得するならいい。でも、道を決めてからは、絶対に後悔なんかして欲しくないんだ」
「それは今までのことがあったから?」
そう言うと、また言葉に詰まった。これじゃあ、有名な弁護士さんへの道のりはまだまだですな。
冗談でウッシッシと笑っていると、急に彼は真面目な顔つきになる。
「……俺は、後悔してないよ」
そして、こう本音をこぼすんだ。
――たとえきっかけが、好きな子を助けたいって理由であっても。……と。
「お、お金じゃ……」
「それももちろんある。けど俺は、なんか嫌な予感がしてたんだ」
「……嫌な、予感?」
「そう。……なんか、葵ちゃんが大きな事件に巻き込まれてる予感」
調べても何も出てこない道明寺。そして謎に包まれすぎている“道明寺葵”という女の子。
「警察よりは、こっちの方が向いてる自信があったし、何かあったら守ろうとした。まあ大人になるまでに……っていうスパンで見てたから、全然間に合わなかったけど」
「……。ううんっ。十分、嬉しいです」
「きっかけはそうであれ、大切な人を守りたいことには変わらない。俺は選んでよかったって思った。だから、葵ちゃんに感謝もしてる。出会えてよかったって。俺のことまで見てくれる君でよかったって。……そう、思ってるから」
べたつくのも構わず、彼は頭をそっと撫でた。
「君が決めた道なら、自分はそれを応援するだけだ」
素敵な笑みを、浮かべながら。
そっと見上げた先。“甘い雨”は、もう……――上がっていた。