すべての花へそして君へ②

そして思いは泡となる


『それじゃあ1時にロビーで』


 嫌です! ……なーんてことは、ないんですけどね? ないない。そんな、嫌だなんてこと、あるわけないじゃないですかー。あはは……あは……あははは……。


(今までもらった課題の中で、一番難しいっ!)


 ちょっと待って。考え直そう。気を確かに。
 そんな言葉を言えないまま、脳内できっとスキップしながら、彼は部屋へと帰っていきました。


(うむむむ……。今思えば、別れ話を持ちかけられた的な言葉じゃないか? わたしよ)


 ちょっと待って!? 考え直して! 気は確かなのっ?


(……いや、そうでもないわ。パニックです。動転してます。助けてください)


 なーんていう言葉はね? 誰にも言えないから、今こうして読者様に言ってるんだよ? ……え。餌食になってこい? 読者様も味方でないっ。


(にしても……)


 どうしたものか。抜け出すって言っても……。


「ねえねえ! 恋バナしようね! あたし、キサちゃんの経緯を根掘り葉掘り聞き出そうと思ってるんだ!」

「やっ、やめてよ」

「だめだめー。今日はお菓子いっぱい持って来たし、徹夜する気満々なんだからね!」

「あっ、明日は海水浴」

「そんなの海で溺れたら朝倉先生に助けてもらえばいいんじゃーん」

「いやっ。ゆ、柚子が。恋バナをエサにしている肉食女子に見える……」


 ……うん。見えるんじゃなくて、間違いなくそうだからね。女子たちがこの調子なもので、抜け出すとか無理な話なのです。


『それじゃあ今からヒナタくんと会ってくるから~』


 あはは~とか、軽いノリで言ったってそれこそ『ちょっと待て』と言われる。そして抜け出せた頃には、根掘り葉掘り聞き出されて。


『『いってらっしゃ~い』』


 ウフフ。グヘヘって。ニヤニヤしながら言ってくるのが目に見えてるし……。帰ったら帰ったで。


『『どうだった? ねえ。どうだった? 何したの? ねえ! 何したか言え!』』


 とかなんとか言われて、明日は抜け殻になる。それこそ、恋バナをエサにしている彼女たちに、なんかいろいろ吸い取られる。明日は灰になってる。絶対そう。


(はてさて。……どうしたものか)


 ただいま、女子みんなでお風呂に入ってます。温かくて気持ちいいんだけど、頭の中はそのことばっかり。


「あ、あっちゃんのことも知りたい……っ!!」

(きさちゃんっ……)


 来るか? いつ来るか? と思っていた矢先、とうとう飛び火してきた。今度の肉食女子たちの狙いは、わたしだ。


「聞きたい聞きたーいっ。あ! そうだ。賭けはあたしの負けだから、今度バイキング一緒に行こうねー」

「え? う、うんっ! 行きたい! でも、奢りとかはなしにしようね? ユズちゃんと行けたらそれで嬉しいっ」

「……あおいちゃん。やっぱりあたしがもらってもいいですか」

「え?」

「やめなさい」


 よくわからないけれど、キサちゃんにそう言われたユズちゃんは、「くやしー!」って言いながら、タオルを歯で噛んでいた。……賭けに負けたのが悔しかったのかな。まあ、それはさておき。


「それはまた、その時でも話せるから、今日は早く寝た方がいいんじゃない?」


 さあ。誘導作戦開始だ。


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