すべての花へそして君へ②

 そんな叫びが聞こえたかと思ったら、目にも留まらぬ早さでラリアットを食らったわたしは、ユズちゃん共々布団の上に倒れた。ちょ、取り敢えず静かにしようかユズちゃん。苦しいし。
 一体何が起こったのかわからなかったカナデくんは、目の前からいなくなったユズちゃんの瞬間移動に、ただただ驚いている。


「どどどどどど、どうしようあおいちゃん……!!」


 そしてわたしは、耳から聞こえる尋常じゃないほどの大量な『ど』に驚いている。


「……ゆ、ユズちゃ」

「い、今からあたしは、あおいちゃんとラブラブするのに忙しいから……!!」


 いやいや。断るにしてもその理由はどうかと思うよユズちゃんや。


「……そっか。わかった」


 いやいや! そこで納得しちゃいけないからねカナデくん!
 そう言って出て行こうとするカナデくんを追いかけようと、……声をかけようと。


(……ユズちゃん)


 しようとしても、必死になってそれをさせまいとする震えた腕に、わたしはどうすることもできなかった。


「だったら、そのあとでいいから」

「「……え?」」


 もどかしい気持ちにヤキモキしていると、扉からそんな声が。……そ、そのあと? ラブラブの?? それ確定なの??


「アオイちゃんと、ラブラブしたあとでいいから」

「か、かなく」

「ユズちゃん。……そのあとでいいから」


 ――――ロビーで、待ってる。
 それだけ言い残して、彼女の王子様は、そっと扉を閉めた。


「……ユズちゃん」


 待っていると言った彼は、きっといつまででも彼女のことを待っているだろう。彼女が自分から逃げたとわかっても尚、そう言うのだから。


「……ち、ちがう。の……」

「ん?」

「あ。あおい、ちゃん」


 あまりにも声が震えていたから、てっきり泣いているものだとばかり思っていた。いや、泣いていたことは泣いていたのだけれど……。


「お。お。おか、しいの」

「……何がおかしいの?」

「すごく、嬉しいはずなのに。……な、何で」


 こんなにも、怖くて仕方ないんだろうっ。

 目元に溢れんばかりの涙をためて。真っ赤になっている彼女を、そっと抱き締める。


「……素直に嬉しいと受け止められないのは、どうしてかな?」

「……も、もう。しつこくしないで……とか」


「そんなこと、言われるんじゃないかと思って……」と。なるほど。そう取っちゃったのか。
 確かに、目ん玉落ちそうなほどビックリしたあと俯いてたユズちゃんなら、そう取っても仕方ないかな。だって、そのあとの彼の顔を、ちゃんと見ていなかったんだから。


「……ねえユズちゃん。昨日言ってたよね」


 自分のことを、狡いかと。最低かと。


「やっぱりさ、わたし思うんだ」


 ……素直になったら、いいんじゃないかなって。


「……あおい、ちゃん……」

「今は今だよ。今、ユズちゃんがどうしたいか」

「…………」

「もしそんなこと言われたら、わたしがうんと慰めてあげる」

「……あおいちゃん」

「もしそんなこと言ったら、よくも大切なお友達泣かせたなって。カナデくんぶっ飛ばしてあげるっ」


 だから。……いっておいで。ユズちゃん。


「……あおいちゃん」

「ん?」

「ちゅーしてもいい……?」

「……行ってきますの?」

「ううん。愛してる。の」

「ははっ。……それは、是非カナデくんにとっておいてあげなよ」


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