すべての花へそして君へ②
そしてユズちゃんは、「……じゃあほっぺにする」と、本当にほっぺにして行きました。でも、ものすごい嬉しそうに笑ってたから、わたしも嬉しくなっちゃった。
……頑張れ。ユズちゃん。カナデくん。
「……こない、ね」
ぽろっと出た声は、なんだかものすごく寂しげだった。それがなんだかおかしくて、ちょっと笑ったりして。
別に、今日は何か約束をしていたわけじゃない。だから、こんなこと思うのもおかしいのにな。
「……寂しいな。ヒナタくん……」
部屋の隅っこで一人、膝を抱えて。そこに額を置くと同時にそんな言葉がこぼれ落ちた。
今すぐあの扉から、「何やってんの」って言いながら迎えに来てくれないだろうか。キク先生みたいに、堂々と女王様を攫いに来てくれないだろうか。カナデくんみたいに、照れながら会いに来てくれないだろうか。
……わたしのお日様は、もう眠ってしまったのだろうか。
「かあー……っ。だめだな。たった一晩なのに……」
たとえ離れていても心は繋がってるから……なんて、サラさんに言っておきながら。結局は、言葉とは裏腹にこんなに近くにいたとしても、寂しいものは寂しくて。
「ヒナタくん無しじゃ、生きていけないや。わたし」
何、やってるんだろうね。
扉をじっと見ていたところで。ずっとスマホを握り締めていたところで。あんな意地悪ばっかりだけど、わたしのことを第一に考えてくれるやさしい王子様が、こんな時間に、ここへ来るわけないのに。
――――――…………
――――……
そんな状態のままウトウトしていると、いつの間にか時間は3時をまわっていた。まだ、二人とも帰ってきていない。
(……いちご)
キサちゃんかユズちゃんのものだろうか。そんなわたしの、ぼんやりとした視界に映るのは、荷物の近くに落ちている苺柄のポーチ。
……イチゴ。strawberry。果物。赤……。
「……あ」
それを見ていて思い出した言葉に、気付けばスマホを握り締めたままわたしは、部屋を飛び出していた。