すべての花へそして君へ②

 カッポ――ンッ!!!!


『いってええッ!!』

『ああごめん。手が滑った』


 投げた洗面器がちょうどよくツバサの後頭部に当たってしまった。


『『ナイスコントロール』』


 いやいや、狙ってませんって別に。ええ、べ・つ・に。
 どうやらお揃いのものはクマのキーホルダーらしい。取り敢えず、今度あおいの家に行ったらクマらしきものは持って帰ろう。


(……3時、か……)


 男子陣は昼間からかなりはしゃいでいたせいか、日を跨ぐ頃には一人、また一人と死んだように眠りについていた。あのトーマでさえ、今はあどけない顔で眠りについている。


(……大丈夫かな)


 昨日の今頃は、本当につらそうな顔で痛みに耐えていた。朝はもうけろっとしてたし、君貧血気味なんだから人助けでも無茶すんなよとは思ったけど。……でも、取り敢えずは元気そうでよかった。


(さすがに、この時間に会いに行ったら迷惑だよね……)


 女子同士で盛り上がってるかも知れないし……みたいな。電話だけでも……って、寝てたらそれこそ迷惑か。


(いや、寝てる可能性は低いか)


 昨日のあの惨状。そこであいつが眠れるわけないし、寝られなかったらそれこそオレを頼ってくる……いや、待て。


(あいつが人を頼るのが一番苦手だってことすっかり忘れてた)


 だったらあいつが取る行動は……? オレなら、昨日の部屋に行く……かな。


(本当に苦しんでるとき以外でも、ちょっとしたことでもいいから頼って欲しいんですけどね)


 まだそうと決まったわけじゃないけれど、今日も目が冴えてしまっているから、トイレへ行くついでにあの部屋のこともフロントに聞いてみよう。
 そう思って起き上がり、窓の外に視線を移したときだった。


「は? ……ちょ。なに、して……っ!!」


 ――――――…………
 ――――……


「――っ、あおい……!!」


 叫んだ自分の、余裕のなさに。必死さに。……バカみたいだと、鼻で笑った。


「……あ、れ? ヒナタくんっ!」


 形振り構わず、走って走って走って。息も整わないまま、バカみたいに叫んで。


「……はあ。はあっ」


 ……はは。ほんと、どんだけ必死なんだ、オレ。


「ヒナタ、くん?」

「……な、に。やってんの」


 窓から見えたのは、あおいと……もう一人。


「こんばんは。弟くん?」


 昼間に会った、……確かシズルって男。


「……彼氏だっつってんだろ」


 オレの、いちいち癇に障る奴。


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