すべての花へそして君へ②
けれど、そう言うと彼女は「……させた?」と不思議げに首を傾げる。
「だから、シントさんにあんな恰好させて萌え萌え~って」
「……させてないよ?」
「え」
彼女の話を聞くと、シントさんが勝手に変に解釈をして、あんなことをしたんだとか。きょとんとしている彼女は、全然嘘をついているように見えない。
シントさん、何で嘘ついたんですか。こいつならすると思ったオレも最低だけど。引くぐらい似合ってたけど。……ま、なんか記念に残しとこ。
「ご飯まで時間あるね。何する? オレの部屋でゲームする? 一緒のベッドで寝る? 一緒にお風呂入る? ていうか泊まる?」
「ちょちょちょ……! ひ、ヒナタくん欲望全開……!」
「え。するつもりできたんでしょ? オレは事前に『オレ一人だけど大丈夫?』って聞いたよ?」
「そ、れは。そうだけど……」
困ったような声で、彼女はオレの視線から逃げるように、俯きながら身を捩る。
「……ははっ。冗談だって」
いつかは、そんなことができればいいなという願望が、ないわけじゃない。いつだって、こいつのそばにいられることが……。
(……あおいが、オレのそばにいてくれることが)
オレの――……願い、だから。
「ちっ、ちがう」
……ん? いや、あおいさん。今ここでそんなこと言ったら本気でするよ? 困らせたなくないからそう言ったけど、したいことに変わりはないんだからね?
「……アルバム、見たくて」
「もちろん。わかってるって」
しばらく、二人ともコズエ先生に呼び出されてたりしたから、ゆっくり時間をとるなんてことができなかった。やっと、こうやって時間がとれたんだ。ずっと、させてあげたいって思ってたよ。
冗談を、そんな必死に返してくるくらい、今のこいつには余裕がない。それだけ、ずっと見たかったんだよね。ごめんごめん。今はちょっと意地悪しちゃダメだったね。久々だったからつい。
「オレの部屋の押し入れの段ボールに――」
……言い終わる前に、彼女の姿が消えた。遅れて、そよ風のようなものがオレの前髪を揺らす。
「……アルバムに足が生えて逃げるわけでもなし」
可愛い彼女に笑いながら、取り敢えず麦稈帽子は忘れないように玄関に置いておくことにした。