すべての花へそして君へ②
 ――――――…………
 ――――……


「あおいにする」

「ま、まだ何も言ってない……!」


 そして部屋に帰ってきて早々そんなことを言いながらお腹触ってくるし。わかってますわかってます。本当に食べ過ぎでお腹ぽっこりなのはわたしもわかってるんです。……なので。


「お風呂にします。問答無用で」

「んじゃ、一緒に入ろっか」


 しゅっ、宿題に関しては何も言われていないけど、解答としてはきっとここでイエスと答えるのが正しいんだろう。正しいんだろうけど……す、すみません。さすがに今日は遠慮させていただきます。


「そう。じゃあ……それはまた今度、ね」


 こんな嬉しそうな、幸せそうな顔をしてる彼を目の前に、次のお風呂のお誘いをお断りすることなんてできるはずもなく。


「こ、今度ね……」


 まあ、まず完全に本性を現した彼の前では拒否権なんてもの、わたしには存在しないのだけども。……拒否なんて、しませんけどっ。

 そしてかれこれ40分。先に旅館周りを軽く30周したにしては長くお風呂に入った方だろう。烏の行水だからなあ。逆上せるかと思ったよ。……本当の原因はいろいろ考えてたからだけど。
 折角だからと、わたしは旅館の露天風呂に入らせてもらった。というか入ってこいって言われた。ヒナタくんは部屋ので十分って言ってたけど……断ったから拗ねたかな。


「ただいまーヒナタくん、お風呂気持ちよかったから、折角だし浸かりに行ったら……」


 って、あれ? ヒナタくんがいない。返事もないし……どうしたんだろ。
 荷物を置いてる部屋にはいないし、トイレにもいない。お風呂も電気消えてるし……うむ、押し入れにもいない。


「飲み物か何か買いに行ってるのかな」


 あ。そういえばスマホ置いて行ってたんだった。また、『ケータイを携帯してない!』って、言われてしまうよ誰かさんに。


「常に携帯しているヒナタくんなら、一応連絡くらいは入れてくれてると思うんだけど。わたしと違って」


 身につける習慣がきちんと備わっていない自分にハハハと苦笑い。そして、そのせいでいつもご迷惑をかけてしまう皆様申し訳ない。謝っときますゴメンナサイ特にシント。


「えーっと、確かこの鞄に」


 入れたであろうスマホを探していると、程なくして探し物が見つかる。画面を開いてみると、そこには……


「……《外》?」


 一文字。それだけ。


「まあ、たぶん外に行ってるってことなんだろうけど……」


 取り敢えずそう納得することにして、明日の準備でもしておこうと思ったときだった。再び短い通知が届く。


《違う こっち見て》


 相手はもちろんヒナタくん。……こっちって? いやいや、どっちだい。
 画面から顔を上げてきょろきょろとしていると、ガラス戸の向こう側スマホを振っているヒナタくんを発見。どうやらこの部屋は、ベランダ付きらしい。あまり部屋の探検もせずプールに行っちゃったから知らなかったや。


「どうせ飲み物か何か買いに行ったんだと思ったんでしょ」

「その通りでやんす」


< 234 / 519 >

この作品をシェア

pagetop