すべての花へそして君へ②

 そしてツボってしまったらしいヒナタくんの滅多にない爆笑と、浴衣の破壊力も途轍もなくて、彼の気付かないところでそっと、視線を外しておいた。


「ははっ。今のはマジでウケた」

「想像したらモミジさんがかわいそうでしょうが」

「いや、あんたの顔で」

「わたしかいっ」


 そんな失礼極まりない会話をしていると、怖ず怖ずと可愛い女の子が一人、カメラを持ってこちらへ歩み寄ってくる。


「……あ、あのっ」


 さすがに尻の穴で盛り上がっていたとは言えないので、すぐさま別の理由を探しつつ、顔を取り繕いながらヒナタくんを肘でツンツン突く。


「……どうせ逃げたんでしょう? たまにはほら、ファンサービス」

「オレにそれを求めるの間違ってない? しかもあなた一応彼女でしょ。ちょっとは止めようとか思わないの」


 ………………ふむ。


「それとこれとは話が違くない?」

「……ねえ、そこまでさっぱりしないでよ。ちょっとは束縛してオレのこと」


 な、なんと……!? ヒナタくんのまさかのM発言に目ん玉落っこちそうになっていると、浴衣の袖をツンと引っ張られた。
 あ。ごめんなさい。決して忘れていたわけではないんです。


「あの、写真大丈夫ですか?」


 一応許可制だったんだね。普通にオープンで撮ってる子もたくさんいたけど、なんて律儀な子なんだ。
 いいよいいよ! わたしに構わず、この可愛いぶきっちょさんを思う存分撮ってくれたまえ……!


「ありがとうございます……! じゃ、じゃあ、お二人ともクマと一緒に並んでくださいっ」

「「……え?」」


 ✿


 ここできっと、いろんな人に分かれると思うんだ。
 たとえば、こうだったんだああだったんだって言えるかどうか。たとえば、言えないけど、まわりが教えてあげたり気付いてあげたり、たった一言「肩貸して」だけでも言えるかどうか。おれらの中にも、もちろんいると思う。
 でもね? それでね、いるんだよ絶対。自分のまわりにいるうちの中の一人は絶対。どんなにつらくても、苦しくても、自分のことよりも相手のことを思って言えない、やさしいやさしい子が。それが、……君なんだよ。


「国宝級美少女の悲鳴に馳せ参じました!! おれの名前はあー……ひーらー・しゃいんっ! れっど!!」


 ∠( ˙-˙)/シャキーン!! と、まさにこんな感じで登場したおれに、目の前の美少女は開いた口が塞がらないご様子。
 ……ふむふむ。おれのかっこよさに驚いて声も出せないんだな。それはしょうがない。


「……悲鳴、って」

「君の声がね、おれには聞こえるんだー。なんてったってひーろーだから。そしてれっどだから!」

「……なにそれ」

「櫓突っ切って、反対側の一番遠くて暗いベンチに行くんだもん」


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