すべての花へそして君へ②

 しばらくその紙と睨めっこをして、ふうと息を吐いた。


「悪い人じゃ、なさそう」

「そっか」

「でも」

「……? でも?」

「なんか胡散臭い」

「ははっ、正直か」


 声を上げて笑う杜真は、それが落ち着いてからぼそりと呟いた。「俺も、同じこと思ってた」と。にやりとした笑みを浮かべて。


「でも、あたしの勘なんだけど」

「ん? どうぞ」


 今にも、愉しそうな悪巧みを始めそうな彼には、水を差すようで悪いんだけど……。


「胡散臭いけど、やっぱり悪い人じゃないと思うのよね」

「そっかー」

「そう。だからさ、これも見守ってみるっていうのはどう?」

「えー俺の楽しみがー」

「こんなことしてたら、あんたいつか訴えられるわよ」

「これも弁護士の卵としての第一歩なのにい~」

「絶対違うから」


 あんなことを言っていた杜真だけど、どうやら彼自身も同じことを思っていたようで。誰かに賛同して欲しかったらしく、調査はすんなり諦めて、一人前の弁護士に向け、日々勉強に精進するとのこと。……ほんとかどうかは、定かではないけど。
 プリントアウトしたその写真を、彼は封筒に収めた。用事は今のことで終わりかな。


「んじゃ、こっから本題な」


 そう思っていると、テーブルの上に何かが運ばれてくる。それは、赤っぽい色をした飲み物だった。
「これは?」視線でそう聞いてみれば、彼は「どうぞ」と、同じく視線で促してくる。


「って、ちょっと杜真! これお酒!」

「ここ、夜はバーになるんだ。だから酒もいっぱいある」


 口をつけたそれは、紛うことなくカクテルだった。
 未成年に何を飲ませる気だと。というかお前もまだ未成年だろと。「どうだ? 美味かったか?」なんて言ってくる満足げな奴に、文句の一つでも言ってやろうと思ったけれど、そんなあたしの口を彼は、指にかけたそれ一つで黙らせた。


「紀紗。ちょっとドライブしねえ?」


 そのカクテルの名前はヨコハマと、言うらしい。カクテル言葉は……【海がみたくて】だと。


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