すべての花へそして君へ②
けれど、それを聞いて彼はふっと笑った。「だな。きっと、キサもお前さんと同じようにキレるだろうな」と、どこかおかしそうに。「思ったこと、ハッキリ言えるんならいいんだ」と、どこか嬉しそうに。
「……キク先生……?」
「すっかりお前さんのいいところがなくなってるじゃないか。どうした? 今まで散々、オレには言いたいこと言ったくせに、一番言いたい相手には言えないってか?」
「えっ」
「いいところを消すような彼氏ならやめちまえ。思う存分お前さんのいいとこ、伸ばしてやれる奴は他にいっぱいいる。オレもいる」
「ちょっ、先生……!?」
「言いたいことはわかる。お前さんが思ってることもわかってるつもりだ。 けどな、そんなこと隠し続けてどうする。これからあいつと、ずっと一緒にいるんだろ? お前さんはずっと、あいつに隠し事するつもりな――」
たまらず先生の口を塞ぎ、まるでマシンガンのように攻撃してくる言葉をなんとかとめる。
「……ばーか」
けれど、そんな手も先生にあっけなく外されてしまった。
……力が入らなかった。指先が、すごく冷たかった。
「……どうして、こんなになるまで我慢する」
先生に掴まれた手は、カタカタと震えていた。
「そんなの、彼氏彼女なんて言えねえぞ」
「……いや、です」
「でもよく考えろ。ずっと隠すんならキツいのは自分だぞ。ずっと隠されてた相手だぞ。……そんな想い、お前らにして欲しいわけねえだろ」
「っ」
頭上から降ってくる声は、ただただやさしかった。……大きな手が、あたたかかった。
「オレな、やっぱり思うんだわ。お前さんの言葉には、何かしら力があるんじゃないかって」
それは、やさしさであり原動力。きっと、たくさんあったお前さんだからこそ、相手を思い合える、そして背中を押せる言葉の力が、思いが、強いんだ。
「……あんなこと言ったけどな、ちゃんと自分のエゴだってわかってるよ」
それでも、やっぱり不安は拭えなくて。あいつの顔を見るたびに、思い出すたびに、正直本気で『別れよう』って、何度も言おうとした。
……でも、やっぱり言えなかった。
「あいつが強がってるのを知ってるくせに、会いに行けないのはただ、オレが弱いだけなんだよ」
「……せんせ」
「でも、やっぱりお前さんの言葉に救われた。……勇気、分けてもらった」
「……!」
だから――と、彼は雑に頭を撫でながらそっと笑みを浮かべた。「お前のおかげで、自信が持てた」と。「お前も、自分に自信を持て」と。
「気付いていることを隠されると、結構寂しいもんなんだよ」
だから、思う存分甘えてやれと、彼は言った。