すべての花へそして君へ②
その会話をして思い出す、先程の彼女との会話。さすがに嘘くさかっただろうか。結構いい感じに隠せたと思ってたのに。女物の香水くらい振りまいてくればよかったかな。
彼女はまさか、こんなこともわかっていたのだろうか。そんなことを考えていると、ティーカップがすっと目の前に出された。
「……ありがとうございます。そういえば、朝日向さんから。『今度はきちんと御祝いに伺います』とのことでした」
「……そうですか」
受け取ったそれはカモミールティー。リラックス効果が期待できるものだ。
「……すみません鷹人くん。君まで巻き込んでしまって」
「いいえ父さん。僕がしたくてしたことですから」
『鷹人くん、私と一緒にゲームをしませんか?』
そんな浮き浮きとしていたはずの父は、今ではすっかり落ち込みモードだ。
「……ゲームオーバーは、どうやら僕たちのようですね」
「はい。そのようです」
秋蘭くんも葵さんも、僕たちの謝罪を受け取ることさえしなかった。僕たちは、彼らにこれ以上ないほどの嬉しい言葉をもらったのに。
「ねえ、父さん」
今回のことは、彼らのためになったのだろうか。僕らの、身勝手なことだといっても過言ではないのに。
「僕は、彼女の友達になっていいんでしょうか」
【彼女が、将来お前の妻になるかもしれない子だ】
道明寺にすべてを飲まれることを恐れ、あてがわれた分家の子ども。遠目に見た彼女は、子どもながらにどこか異様な美しさを放っていた。それが少し、恐ろしいと思った。
『……怖い? この赤い瞳』
『……ぜ、ぜんぜん』
『あはっ。あなた、嘘つけないのね』
でも、一度だけ話した彼女は僕に笑顔を向けてくれた。怖さなんて、どこかへいってしまった。
だから、この人ならいいかと、そう思ったんだ。
「“何もかもをわかっている”彼女が言うならば」
きっと今頃、僕の連絡先はちゃんとした名前に書き替えられているんだろうな。
「……父さん。どうやら僕、新しく友達ができたみたいです」
「じゃあ今日はお赤飯を炊いてもらわないと」
「それは……まあ、ある意味いいことが起こりましたから、今日は本当に炊いてもらいましょうか」
「ええ。今日は、本当に素敵な親睦会でした」
「はい」
窓の外から夜空を見上げると、十六夜の月が見えた。
「でもね父さん、衝動的に桜李くんまで連れて行くのはどうかと思いますよ。そりゃ可愛いのはわかりますけど」
「あ! 折角だし桜李くんも呼んでみましょうか。きっと彼も、どうなったか知りたいでしょうし」
「さすがに今日は遅いので、またにしたらどうですか? これからは、彼も僕らの家族のようなものなんですから」
「………………わかりました」
「渋りましたね。……また来てくれますよ。絶対に」
きっと、霧も霞も靄も、すべて彼女が取っ払ってくれたのだろう。そう思ってしまうくらいの、綺麗な綺麗な月夜だった。