すべての花へそして君へ②
 ――――――…………
 ――――……


 あれは、パーティー中盤。
 盛り上がりが少し落ち着いた頃、葵が席を外したタイミングで彼に声をかけられた。


「コップ空いてます。何かいりますか」

「俺は君を一生恨んでやる」

「オレンジジュースでいいですね」

「いやだ。リンゴがいい」

「わかりました」


 絶対こいつが、葵に変な知恵を入れ込んだ張本人だ。
 俺には確固たる自信があった。特に理由はないが、彼ならやりかねない。


「……それで? 用があるんでしょ俺に。正直話もしたくないんだけど、しょうがないからこのリンゴジュースがなくなるまでは付き合ってあげる」


 そう言って一気にコップを呷って一瞬のうちに飲み干してやろうと思ったけれど、隣から飛んでくる刺さるような真剣な眼差しに、半分残ったところで俺はコップを置いた。


「……はあ。わかった。聞く聞く。聞けばいいんでしょ」

「シントさんは聞いたと。そう伺ってます」

「ま、来るだろうとは思ってた」


 皮肉も言わず、真面目な顔して訊いてくるくらいだ。大凡の見当はついていた。


「君が言ってくれるんだってね。ていうかまだ言ってないの。教えてもらったのっていつ」

「……事が収束したその日、です」

「なんですぐ言わないの。先延ばしにして、なんかいいことでもあるわけ」

「……すみません」


 苛立つのにはわけがある。事が事だからだ。正直俺も、この話を聞いたときはどれだけ罵詈雑言を吐き散らしたかわからない。
 それでも今、こうして何も言わないのは、あの子の気持ちを考えたからだ。だから、彼がそうして先延ばしにしてしまう気持ちも、わからないわけじゃない。

 けれど、だからといって黙っているわけにはいかない。困るのは俺たちじゃないんだ。あの子なんだ。


「……違う。完全に八つ当たり」

「シントさん……」

「何もできない自分に、やっぱ腹立つんだよ。君もそうだろ?」

「……オレは……」


 俯く彼の顔が陰る。その顔は、俺のように腹立たしさに染まってはいなかった。
 ……そうか。そうだよな。


「結局決めるのは葵だ。俺らがどれだけ悩んだって、あいつは自分が正しいと思った選択をする」

「……はい」

「いやってほど知ってるでしょ。あいつが相当頑固だってこと」

「はは。……はい。ほんと、いやってほど」


 再び戻ってきた彼女の方をチラリと見ながら、彼は泣きそうな顔で笑った。
 ……君は、そんな顔もするんだな。


「用事は、どうやって言おうかって相談?」

「まあそんなとこですけど、でも一番は、“知っておいて欲しかった”のかもしれません」

「自分が抱えているものが、苛立ちではないことを?」

「……はい」

「……まだ苛立ちならよかったのにね」

「はい。……本当に」


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