誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「桐生部長。」

甘ったるい声で腕に絡む彼女。

まるで、ここがオフィスだということなど忘れているように。

「美香、まだ社内だぞ。」

軽くたしなめるように言いながらも、部長は彼女の腰に手を回していた。

軽やかで自然なその手つきに、私は息を飲んだ。

「甘えるのは、二人きりになってからだ。」

低くて優しい声。

あの冷たい声音とは正反対。

誰が聞いても落ちるような、甘い言葉。

私は思わず足を止めた。

見てはいけない、関わってはいけない――そう思っているのに、目をそらせなかった。

この人は、誰にでもあんなふうに笑うのだろうか。

誰にでもあんな風に触れるのだろうか。

私の心の中で、何かがざわめいていた。

そしてそれを、私は必死に見ないふりをしていた。

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