誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
目が合った瞬間、視線を逸らしそうになる。でも、それを許してくれないように彼が口を開く。

「篠原さん。」

淡々と、だけど逃さない声色だった。

「ため息のオンパレード。……聞こえてたよ。」

私の呼吸が止まりそうになる。

「だから言ったでしょ。俺にしとけって。」

からかうようで、でも真剣にも聞こえる声。私は無言でコーヒーを買う。そして、言葉を選びながら問いかけた。

「……一条さんって、彼氏がいる女にキスしたりします?」

しばしの沈黙の後、彼の声は妙に冷静だった。

「君のこと――抱いたじゃん。」

缶コーヒーが、手の中で震えた。

鋭く、直球で、逃げ場のない言葉。

責めるでも、謝るでもない。

むしろ、彼の中では当然のことのように語られたその一言が、私の心の中をざらりと掻き乱していく。

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