誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
私は震えながら、その胸元に顔を埋める。

「……桐生部長……」

そう呟いた私の声に、彼は静かに微笑んだ。

「“桐生部長”じゃない。“隼人”って呼んでほしい。」

それは、まるで恋人のような囁きだった。

胸が熱くなる。

「……隼人さん……」

名前を呼ぶと、彼の目が優しく細まる。

「紗英……」

名前を呼び合うだけで、こんなにも心が近づくなんて。

その瞬間、私は確かに感じた。

この人を、信じてみたい。

どんなに危うくても、どんなに泣くことになっても、

“好き”という気持ちを、まだ手放したくないと思った――

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