偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
砂原の村を離れ、数日の旅路を経て二人が辿り着いたのは――かつての東の小国、今や交易の中心として栄える王都・赤光だった。
白い石畳に、異国の香を湛えた香辛料と花の匂い。
長い旅の疲れを癒すには充分な地ではあったが、紫遥の顔色は晴れなかった。
「ここに入るのは十年ぶりだ」
「……昔、いらしたことが?」
「ああ。父上の使節として、兄上の代わりに――」
そう話す紫遥の目が、どこか遠くを見ていた。
その眼差しに、月鈴はそっと手を伸ばす。
「今は……私と一緒に、いるのですよ」
「……そうだな」
微笑んだ紫遥は、けれど胸の奥で確かな違和感を覚えていた。
(この空気……監視されている?)
――その予感は、数刻後に的中する。