すべての花へそして君へ③

 海の底を震わせて、わたしは大きく一つ、泡を吐いた。


「あとから海宛てに手紙を書くけど、今だから言わせて」


 わたしを守ってくれて、本当にありがとう。
 わたしが必ず、あなたを助けるから。


「それと、これだけは言わせて」


 だからどうか、世界で一番の、幸せ者になってね。

 すると、黒くなった海の底が、何故か悲しげにゆらゆらと揺れた。


『……決してこの世に恨みがあるわけじゃない』

「あなたはきっと、わたしを救うためにここに留まっていてくれたんだ」

『生きている間も、決して嫌なことばかりだったわけじゃない』

「だからわたしは、これからわたしの幸せをたくさんお裾分けする。そんなものじゃ全然、感謝にはほど遠いけど」

『……ふふっ。なんだか、死んでからの方がとっても楽しそうなことが待っていそうね』

「楽しいことばかりじゃなかったけれど、でも、わたしがいろいろお馬鹿するから、見てるだけできっと面白いと思うよ!」

『来世に期待! なんて思ってたけど、今世もまだまだ捨てたものじゃなさそう』

「楽しむためには、勿論あなたの協力も必要だよ」


 だから、二人で笑い合おう。お互いのハッピーエンドが、迎えられるように。

 奥の方から伸びてきた手をそっと取ると、ふわりと巫女衣装を着た綺麗な女の人が楽しそうに笑っていた。


『わたしね? 実は未来が予想できるの』

「偶然! 実はわたしも、そっち系得意分野なの!』


 そして二人で声を揃える。


『あなたに出会えたことが、わたしの何よりの幸せだわ!』
「あなたに出会えたことが、わたしの何よりの幸せだよ!」



 ○゜◦。°〇゜◦。°○゜◦。°〇゜◦。°



「……くっ、ふわああ~……」


 ベッドから起き上がり伸びをすると、寝る前に比べ随分体が軽くなっていた。熱も、もう下がりきったのだろう。
 そして腕を下ろすと、コンと何かに手が当たる。


「ぅわお! うちにはサンタさんがどれだけいるんだ……?」


 ベッドはプレゼントでいっぱいだった。多分中には、お見舞いの品も入っているだろうけれど。
 それは後ほどの楽しみにとっておくとして、顔を洗いに洗面所へ行くことにした。

 ……そこで、事件は起こったのだ。


「……な」


 え。な、なんで?


「……ど、……どぉおお……!?」


 どうして。だってあれは、全部夢の話で……。


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