すべての花へそして君へ③

(まさか日本語ペラペラとか。いや、確かに顔はまるっきり日系だったけど流暢に話してたし……ふはっ。してやられちゃった)


 小さく独り言ちていると、僅かに地面が擦れる音が。振り返ると、神妙な顔付きでシズルさんが傍に控えていた。
 どれくらい目が合っていたか。合わされたそれをじっと見つめ返していたが、暫くして悩ましげに彼は目を伏せる。

 何も言わずに、ただ彼の横を通り過ぎた。


「……どうして、君は俺を選んだんだろう」


 背中越しに辛うじて聞こえたのは、本当に小さな声だ。自問しているような、かすかな声。
 足を止めたわたしは、その問いへ答える。


「自惚れないでください」

「……え?」


 届かなかったのか。それとも理解ができなかったのか。
 こちらを振り返った様子の彼に、もう一度、同じ言葉を飛ばす。


「自惚れてんじゃねえって言ったんですよ」

「(さっきはもうちょっと優しかったと思うんだけど)う、自惚れてるって、どういうこと? 確かに、俺の力は役に立つと思ってはいるけど」

「自惚れんな」

「そりゃ、葵ちゃんに比べたら俺なんて天と地ほどの差があるとは思うよ? 一般的に考えたらそうだろうなって思って」

「自惚れてんな?」

「いや、うん。はい、すみません(もう何も言わないでおこ……)」


 とぼとぼ……と、こちらに近付いてきた彼は何メートルか離れたところで足を止める。
 その空いた距離が、何を表し何を意味しているのか。そんなこと問うまでもなく、わたしは彼が空けたそれを、足音に苛立ちを混ぜながら一歩、二歩、三歩となくした。


「わたし、年上の方々への図々しさには定評があるんです」

「ん?」

「だから言わせてもらいますけど」

「うん、どうぞ」


 彼はまだ、笑っていた。表面の、薄っぺらい場所で。


「選んだのは、わたしですか」

「――!」


 まだ、そんなところで笑うなら――彼の首元を掴み、グイッと下へ引き摺り落とす。


「いいですか、耳かっぽじってよく聞きなさい」

「…………」

「あなたにも任務があったことは、お会いしたときから知っています。何を任されたのかも、ある程度熟知していると思います」

「……はは。ある程度、か」

「確かに今、あなたはわたしの指示で動いてる。仕事を熟してくれています。でも、わたしの下に就くと、選んだのは……決めたのは誰ですか。あなた以外にいるんですか」

「……それは」

「いるんなら連れてきなさい、今ここに」

「…………」


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