すべての花へそして君へ③
薄曇りの秋月に君思う
半年前。コズエ先生に、あいつの残された未来を聞いたオレは、事件が収束した翌日の早朝、ミズカさんに稽古をつけて欲しいと頼み込んだ。
はじめは断られた。ヒイノさんも猛反対。稽古をつけなくても、十分強くなっているという理由から。
そしてこれはそのあとに聞いた話だけれど、あいつが花咲の家に暮らすから、その目を盗んでとなると稽古の時間が限定されてしまうからだった。
『わかった。わかったからひなたくん、ちょっと落ち着け』
最終的に折れてくれたのは、あまりにもしつこかったからだろう。しつこく頼んだ理由にも、きっと彼は気付いていた。
それを深く追求することはせず、ミズカさんは金曜日の夜から土曜日の早朝、オレが泊まり掛けでお邪魔したときに限り、稽古をつけてくれると約束してくれた。
――けれど、それには一つ、条件があった。
『え。……アイを?』
『ああ。彼もうちで預かることになっている。あの子も道連れにしろ。きっといい相手になる』
彼に稽古をつけてもらっているうちに、どうしてアイだったのか。その理由がわかった。
何故なら、はじめは稽古とは名ばかりで、自分たちの中に溜め込んでいた感情を、ぶちまけてぶつけ合って。そればかりだったからだ。
『あの子もいろいろ大変だろうから君も聞いてやれ。君も聞いてもらえ。勿論オレも聞いてやる。稽古はそれからだ。……嫌か? でもこれは条件だ。嫌なら諦めろ』
道明寺のこと。父親のこと。それから、オレと同じであいつの未来のこと。悩んでいるのは、不安になっているのは自分だけではないということが、下手な慰めなんかよりよっぽど心強かった。
彼がわざわざアイを道連れにしてまで言いたかったのは、伝えたかったのはこのことだったんだと。オレとアイは口に出さずとも、お互い身を以て感じていた。
そしてもう一つ。このことにアイが気付いているかはわからないけれど、彼にはまだ、他に思惑があった。
『バナナの皮とか、降ってこないかな』
『他力本願とか考えてるから、俺から一本取れないんだよ』
『っ、絶対今日は一本取るからっ!』
『寝言は寝て言いなよ!』
『はい。じゃあ、今組んでるので最後な。一本取った奴は上がれ。取られた奴はオレを乗せて腕立て。よくわかっていると思うが、オレは昨日存分にご馳走を食べ美味い酒を飲んだからな。嫌なら死ぬ気で勝てー』
『『はいっ!!』』
体が弱かったなんてことを聞いた時は嘘だと思った。けれど、アイもアイで強いあいつを見ながら成長してきたのだろう。
そして、やっぱり血のせいか。ほとんど敵などいないくらいには強かった。力が違いすぎた。
まあ、それもはじめからわかっていたことだったんだろう。
『なあひなた。お前、待つのは怖いか』
『っ、はあ、はあ。……は、はいっ?』
『だから、待つのは怖いかって言ってんだ』
『これがっ、……っ、答えです、よっ』
『……そう、か』