すべての花へそして君へ③
 ――――――…………
 ――――……


 その金曜日は、タイミング良くヒナタくんが不在で、話をするには持って来いだった。


「ん? 改まってどうしたのか? いや、別に改まったつもりはないんだけど。まあそう見えちゃうのも仕方ないのかも」


 みんなに口を揃えてそう聞かれてしまったので、わたしは改まって佇まいを正した。


「みんなに話があります。内容は、主にわたしの未来について」


 口火を切ったわたしの言葉に、瞬間その場の空気が凍て付いたように静かになる。


「……あ。ちょっと味見してくれない? 何か物足りないの」

「はーい。うーん、お醤油かな?」

「それだ!」


 流石と言うべきか。その空気を一瞬で払った母とヒイノさんは、優しい笑顔と態度を崩さないまま、楽しそうな声でクッキングを続けていた。


「い、今更わかりきったことを」

「な、何を言い出すかと思えば……あれだろ? ひなたの嫁」

「い、一回冗談で言ってみましょうか。娘はやらん! って」

「は、ははは! それもいいかもしれないな!」


 ご馳走の前にお酒を飲んで楽しそうにしていた父とミズカさんは、思っていた以上に動揺しているように見える。隠すつもりならもうちょっと努力しなさい。


「…………」


 アイくんは断固としてこちらを見まいと、視線を合わせようとしてもくれない。見ていることには気付いているだろうけれど……ま、無理もない、か。
 各々の反応をいただけたところで、一度大きく咳払いをする。こんなところで躓いている場合ではないのだから。


「それで、ですね」

「ひいのちゃーん、そっちのお皿取ってー」

「くるみちゃん、それならこっちの大きめの方がいいんじゃない?」

「あのー……」

「……あ、でもちょっと待ってみずかさん」

「ん? どうしたんだ、かなた」

「ひなたくんにそんなこと言って、大丈夫ですかね。その……弱み的な意味で」

「……一旦保留にしておこう。安全策を考えよう」

「あのね、だから聞いてって言っ――「皆さん! あおいさんの話を聞いてください!」――うわお!!」


 思わぬところからの怒号に、みんな思わず動きを止めた。勿論、言い出しっぺのわたしもだ。


「……あ、アイくん?」

「俺が、こんなこと言えた義理ではないですが」

「アイくん」

「どうか、話を聞いてあげてください。……彼の、ためにも」

「だからアイくんってば」

「……何ですかあおいさん」

「ちょっと落ち着こう。ね?」

「……あれですよね。皆さんの前で話すんです。俺も腹を括れってことですよね」

「いや、寧ろ括るとしたらアイくん以外」

「え?」


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