すべての花へそして君へ③
冬空のはちみつレモン
学内の生徒は勿論、わたしたちのように学外から招待を受けた学生たちは大勢いる。しかしだ。言い方は悪いがはっきり言って、ただの創立記念パーティーだ。精々クリスマスパーティーを、もう少し豪華にしたくらいだろうと高を括っていた。
「――いえいえ滅相も御座いません。わたしはそのような者では……どうやら尾鰭が沢山付いてしまっているようです。噂は面白いですよね。どこからそんな風に皆さんお話を広げるんでしょうか、オホホホ」
「失礼致します朝日向様。朝日向様とお話がされたいとおっしゃっている方が」
「そうですか。わかりました。それでは大変申し訳ありませんが、一度席を外させていただきますね。失礼致します」
「申し訳ありません齋藤様。後程お好きなカクテルを運ばせます」
そう言って彼は、先程までわたしが相手をしていた女性に、優しい顔で微笑みかけた。……奇声が上がった。
「……っと。すまない、誰か救護班を呼んでくれ。急患だ。会場の熱気に当てられたらしい」
一発卒倒。持つべきものは美貌か。
一度会場を出たわたしたちは、個室にて緊急会議を開いた。
「何やってるの。オホホって?」
「どうやら場所を間違えてしまったようで。オホホホ……」
パーティー会場に入ろうと、初めて開けた扉は一度静かに問答無用で閉めておいた。
だってだって! ちょっと開けただけなのにザッて。ザッ! って、視線の音が聞こえたんだよ? 下手したらホラー映画よりもホラーだったよ。
「この僕がエスコートしたのに、そんなことがあると思う?」
「タカトでも道に迷うことがあるんだね」
「桜のみんなも、もう来てると思うよ。さっき藍と薫が案内していたから」
「…………」
「会いたくないの?」
「あ、会いたいに決まってる」
「それはよかった」そう嬉しそうに微笑んでくるけれど、わたしに全くの影響がないかと聞かれれば……実はそうでもなかったりする。流石に、奇声を上げたりはしないけど。
「はい、それじゃあさっさと戻るよ」
「み、みんなにも会いたいけど、まだ先にするべきことがある」
「律儀。いや、頑固の間違いか」
「むう……」
「暫く会ってないんだ、ここで抱き付いていったって誰も文句は言わないよ? そんなのすっぽかしたって“まだ”問題ないだろうに」
「“もう”あるからダメなの。買って出てくれたくせに意地悪言わないで」
「ごめんごめん。あまりにも綺麗だから、ついね」
「なんじゃそりゃ」
睨んでみても、外用の笑みで躱されて終わり。「それじゃあ行こうか」そう言って微笑んでくれた瞳からは既に、意地の悪さは消えていた。
それを見て、わたしはもう何も言わないことにした。言ってもアウェーじゃ分が悪い。今日は大人しくしておいた方が身のためだ。
「ありがとう。エスコート宜しくお願いします。また変なところがあったら言ってくださいね、先輩?」
「勿論。僕にできることがあるなら何でもしますよ。何と言ったって“友達”だし。ね、朝日向様?」
その優しい手に引かれ、わたしは再び会場への大きな扉を開いたのだった。