すべての花へそして君へ③
「……雪が止んでるのが救いかも」
それから。有栖川理事長から目的地に一番近い隠し通路を教えてもらったわたしは、先程までいた校舎を出て、校内にあるなだらかな坂を上っていた。
『――それでは、私も少しばかりではありますが、お手伝いさせていただきましょう』
お暇しようとしたわたしにそう声をかけてきた彼は、カードと地図を見比べた後、嬉しそうに頬を緩ませた。
『先の方が解いた通り、謎の答えはこの赤い丸印がしてある場所で間違いなさそうですね。目立つ場所でなかったのは、少しでもゲームを通じて様々な方と交流して欲しいという意図があったのですが……』
その地図を指差した彼は、少しだけ悲しそうに眉尻を下げる。
『ここは、百合ヶ丘の生徒はあまり近寄りません。恐らくは、この場所を知っている生徒の方が稀でしょう』
『どうしてですか?』
『無条件に秘匿されている場所だからです』
『秘匿?』
『行けばわかります。外は寒いですから此方を。その上からお使いください。よければ差し上げます』
『……ありがとうございます』
大きめのショール、戴いていてよかった。とてもじゃないが、薄手のドレスで真冬の外に出るなんて、風邪を引きに来ましたと言っているようなものだ。
「確かこの辺に……さぶっ」
場所を確認しようと一度立ち止まると、冷たい風がわたしの熱を奪っていく。
けれどその時。
「え? ……花、びら……?」
目の端に、ここにあるはずのないものが映った気がしたのだ。
もう少し歩いて、その正体をわたしはようやく見つけることができた。
坂の上にあったのは、小さな小屋のようなもの。恐らく庭師の人たちが、ここで道具の手入れや肥料の補充などを行っているのだろう。
そして、横に大きく手を広げた、それはそれは大きな大木。それに、まるで花のように積もった牡丹雪。辺りを優しい桜色に照らすいくつもの照明。
わたしが花びらだと思ったのは、小さな雪の塊が冷たい風に乗ってきたようだ。
「……まるで、ここだけ春が来たみたい」
その小屋の裏手側。小さな庭のような場所に、それはあった。
ただじっと、そこに佇んで。まるで、誰かが来てくれるのを、待っているかのように。
「綺麗。……きれい、だけど……」
やっぱり、どこかつらそうに。寂しそうに見える。
……――あなたも、会いたい人がいるの?