すべての花へそして君へ③
疑いの瞳で見つめながらも、彼はわりとすんなりスマホを渡してくれた。前にも思ったけど、一体何を入れてるんだヒナタくん。ま、見るのは憚れるけれど。ちょっと怖いし。
「ヒナタくん前、わたしにスマホを預けてくれたでしょう?」
「え? ……ああ、うん。熱海でだよね」
「そうそう、その時に……っと。お! ちゃんと残ってた」
「一体何を探してたの」
自分のスマホの中に、まさか知らないものが入っているとは夢にも思わないだろうな。
「覚えてる? 君がその時、わたしに罰ゲームで何をしろって言ったのか」
「……愛を囁け?」
「そうそう! よく覚えてたね!」
「でもそれ、結局上手く撮れなかったって……」
「うん、動画はね」
「え?」
録音アプリを立ち上げ、ファイルを開く。そして、ヒナタくんの耳にそれをそっと当てた。
「すまねえ。囁いた愛はちょびっとだけなのだ」
「い、いや。そうじゃなくて、一体何を――んむ」
怪訝な顔をする彼の唇に、人差し指でそっと触れる。
「『こんにちは、ヒナタくん』」
「……!」
「『いや、おはようかな? それともこんばんはかな?』」
「……あおい」
だから、一体どういうことなんだと。怪訝な顔の彼には一つ、笑顔を向けて。
『――……これを聞いているということは、君はわたしが勝手にしかけた勝負に、勝ったということでしょうか。それとも隣でわたしが聞かせているのでしょうか。ま、それはひとまず置いておくことにして。……君に、話さなければいけないことがあります。とっても大切なことです』
『君は、知っているでしょう。わたしに与えられた選択肢のことを。まずは、そのことについて詳しく話をしましょうね。君は、わたしの代わりに、わたしを思って一緒に苦しんでくれているようですけど――……大丈夫。君が、心配しているようなことはありませんし、絶対起こったりしませんから』
「……どういうこと」
「いいからいいから」
『もし質問があるならば、それはわたしの話が済んでから。その後でもわからないことがあれば、わたしに聞いてください』
「……わかった」
『うんうんっ、いいお返事です』
「……」
いろいろ言いたげな視線が飛んでくるけれど、わたしはそれを苦笑いで躱し、彼の後ろ側に回り背中を合わせる。
「ま、聞いてあげてくださいな」
「……はあ。わかったよ」
背中が、すごく温かい。風は冷たいけど、太陽はやっぱり温かくて。……空も、心も、世界も。どこも晴れやかだ。
『――……わたしは、選びました。きっと、君も予想しているであろう道を。正直、わたしも蓋を開けてみるまではどうなることかと思っていました。けれど、それが開けてびっくり。素敵なことだらけで、毎日が驚きの連続なんですよねーこれが』
――そう。わたしがあの熱海で残したのは、愛の囁き……とはほど遠い告白。
つい先程まで内緒にしていた、君にもついさっき伝えた、わたしの――……今までの足跡。その一部。
――――――…………
――――……