すべての花へそして君へ③

「あおいさんや」

「な、なんだいヒナタさんや」


 話を一通り聞き終えたらしい。背中側から、低めの声がかかる。


「何勝手に勝負してくれてんのかな」

「ま、負けず嫌いなのはよく知ってるんだけど、取り敢えずちょっと落ち着い……っ!?」


 ふっと一瞬、浮遊感を感じたかと思ったら、直後後ろからきつく抱きしめられる。


「……ひなた、くん」

「バカだね、本当に……」


 腕の力とは裏腹に、その声は掠れるほど小さくて、そして優しかった。



『――と、まあ仕事内容はそんな感じです。まだ始めたばかりだし、他にもまたすることは増えるかも知れないのだけどね? これを録音という形で残しておいたのは、やっぱりあなたに隠し事をしたままにしておくのは、わたしが嫌だったからです。でも先程も伝えましたが、このことは誰にも伝えてはいけません。一応、ボスからの優しい【命令】ですので』


 ――だからわたしは、ここで勝手にあなたに勝負を挑みます。


『勝負内容は簡単! あなたが、わたしが残したこの録音の存在に気が付くかどうか。いっぱいファイルがあるので、なかなか気付かないのではないかなー? と、勝手に思ってますが。ていうかなんでこんなに録音ファイルがあるの? なんか、ちょっと怖いよ……』

『……ごほん。では、気を取り直して。最後までバレなければわたしの勝ち。これに気付けばあなたの勝ちです。さあて、結果はどうだったんでしょう。できることなら、最後まで気付かないことを祈ります。こうやって残しているくせに……なんて、思われても仕方ないですけど』

『……それでもそんな風に思ってしまうのは、わたしの勝手な自己満足。何もかも終わって、ボスの許可が下りて、君に全部を話してから――』



「……よっぽど大事なんだね、オレのこと」

「ええ、そうですとも」

「大好きなんだね、オレのこと」

「ええ。もちろんですとも」


 ――君に、思い切り抱きしめてもらいたいから。


「このタイミングで聞かせてくれたってことは、ボスの許可はもう下りてたんだね」

「それについては黙秘します」

「は? どういうこと」

「厳密に言うと、許可は取っていないと」

「……」

「ま、そういうことになりますかね」


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