すべての花へそして君へ③
『――だから、“まだ気付いていない”んでしょう?』
その通りだ。考えていること、隠していることなんて筒抜けで、相手の方がその、何枚も何枚も上手だった。少し考えればわかるはずなのに。
『……いつ、から』
――はじめから……とか、ふざけんな。
『何を。……どこまで知って』
――全部。それから“それ以上”って、どういうことだよ。
『どっちを、……選んだっていうんだよ……っ!』
――今はまだ言えないわけは、一体何なんだ。
しかも、必死さを隠しきれないこちらとは違い、至って冷静の彼女はというと、言うに事欠いて文句まで言ってくる始末。
『前の君ならさ、きっとあんな風には言わなかったんだ。わたしのこと。ただ、馬鹿の変態だって。そう罵って終わりだった』
いやいや、そんな話の流れじゃなかったから。
『……羨ましかった?』
それは前から思ってた。正直女なんだから大人しくしとけよって思うくらいで。
『でもさ、わたしみたいになりたいなんて思ったこと、無かったよね』
それは……。
『……いつから、そんな風に思っちゃったんだろうね』
いつから……って。そんなこと――――っ。
(知るかそんなもん! 気付いたときには思ってたし考えてたし! あんたのこと好きなんだから当たり前でしょ!?)
なんて、面と向かって言えないあたりヘタレ確定。尻に敷かれる未来が見える。
でも、全部わかってるなら、オレの考えてることもちょっとくらい、わかってくれたっていいじゃん。理解してくれたっていいのに。
けれど、こんな風に考えること自体、きっと間違っているんだろう。だから彼女は、『あんぽんたん』なんて、笑顔でぶち切れていたんだ。
(オレだって、隠してたこと怒ってるんだから。そりゃ、付き合ってても言えないような隠し事の一つや二つ、あってもいいんだろうけどさ……)
でも、かと言って今まで隠してたオレが、あれこれ問い質せる立場にあるかどうかと言われれば、答えは勿論ノーだ。
怒っている理由がわからないわけじゃない。けれど、超絶多忙×お怒りMAXのダブルパンチで、話し合いをする時間すら設けてもらえない状態だ。……一体どうしたものか。
だいぶ落ち着いてくれたところでそっと目を開けると、少年が不思議そうにこちらを見上げていた。そしてふと見つけた、その少年の手の中にある“フィニッシュ”に、オレは僅かに微笑む。
こんなところで一人、考えていたところでしょうがない。何かを学んだところで、悔いたところで結果が出るわけではない。
《グッドラック。ま、またいつか》
〈……!! Merci beaucoup!〉
オレが探している答えはただ一人、あいつしか持っていないんだ。