すべての花へそして君へ③
何故ならそこには、シズル――熱海でそう名乗った男が写っていたからだ。
そしてトーマは、周りを一度気にしてから、声を落として話す。
「事の詳細は、未成年が絡んでたこともあってすべてが公になることはなかったけど、あそこまで大規模に膨れあがった大事件だ。興味本位でだって近付いてくる奴はゼロとは限らない」
何もないに越したことはないけどなと、小さく息を吐いたトーマはオレの手から封筒を回収した。
「勿論彼氏って知ってんなら、お前にだって近付いてくるだろうな」
「こいつ、京都でも会ったんだ」
「……じゃあ、限りなく黒に近いグレーだな」
「トーマ、オレ……」
「何もしないで距離置くよりは、何かしてる方が気が紛れるだろ」
「……なんで知ってるのかな」
「信じることは決して悪いことじゃない。葵ちゃんにとってもお前にとっても、きっとそれは大事なことだ。だから――」
――――――…………
――――……
「……って、おーい九条くん? 聞いてた?」
「あ、すみません。フラッシュバック……」
「え、何の?」
「シズルさんをぎゃふんと言わせてやろう計画のはじまり」
『――だから、全てを疑う役目は、俺がお前の分まできっちり引き受けてやるよ』
その後トーマは、彼がここの喫茶店にアルバイトで入ってきてくれたことも教えてくれた。そして、急遽今日来られなくなったとも。
『言っただろ? 限りなく黒に近いグレーだって』
それからキサに協力してもらって、何かしてくるか確認しようとしてることも。この場所は、唯一監視カメラの死角になっていることも。
『近すぎたら見えないことも、少し離れたところでなら見えるかもしれないだろ?』
オレらのことを応援してくれていることも。
正直、弁護士より探偵に向いてるかもなんて思ってしまったのは秘密――――
「あれは撮られてあげたんだよ」
「……え」
「ああ違うよ? 熱海のじゃなくて家族写真の方。俺多忙だからさ、家族で撮った写真とか一枚も持ってなくて。ちょうどいいかなーって」
「……俄には信じられませんけど」
「まあ、それに付け込んで脅してくるとは思わなかったけど」
「あれは、脅しじゃなくて大事にして欲しいってことで……」