すべての花へそして君へ③
何の気なしに言った私の言葉に、何故か桐生君は真意を確かめるような瞳でこちらを見つめてくる。そんなに変なこと言ったかな。
「……嫌いでしょ、コーヒー」
「……知ってたの」
「余計嫌いになったらどうするんですか」
「そう、だよね」
「だからまあ、……このくらいならイケるかな」
「……え?」
言うが早いか、カチャリと目の前に置かれたのは、多分カフェラテ。一口口をつけると、ほのかに香るコーヒーと、それを包み込む甘いミルク。なんだか今日は、魔王様にとことん甘やかされそうな気がする。
そんな私の様子を満足そうに確認した彼は、ふうと小さく息を吐いた。
「バイト先に近付かないでと頼んだのは、あの人がいたからです。あの人……シズルさんが、一体どういう目的であの子に近付いてきてたのか、わからなかったから」
そう切り出してしまった彼に、ああ、話を始めてしまうんだなと、何故か落ち込んだ。……そっと、カップはテーブルに置いた。
「けど、シズルさんは……その、悪い人? では、なかったんだよね?」
「……もし、悪い人だったら」
彼は、自分用に作ったコーヒーを、一口飲んだ。
カチャリ――ソーサーにカップを置いた音が、少し震えているような気がした。
「あの写真を見てしまった先輩を、何がなんでも守らなければと思いました」
「……え?」
「だから、言ったでしょう? 黙っておいてくれないか、と」
「……た、しかに、言われた……けど」
え? じゃあ何ですか。写真を見てしまった私が危なかったから、黙っておいてもらう代わりに毎度毎度呼び出して、キスぶっかましてきたっていうの。
「……違うか。自分のそばに置いとく方が、いいと思ったんだ」
私が危なかったから、荷物持ちなんかさせてたの。誰にもつけられないようにしろだなんて言ったの。遅くなったら危ないから、早く帰れだなんて言ったの。
だから、私がストーカーしてても何も言わなかったの。隠し撮りしてても、寧ろ好都合と思ったの?
「……え。ちょっと待っ……」
もしそれが本当なら、私と別れた後、桐生君はどこにいたの? バイトに行ってたんじゃないの?
「そういうところは気付かなくていいんです」
「えっ? わ、私口に出して」
「ないですけど、顔には出てます。……いいんですよ、今は実は普通に賢いところ出さなくて。いつもの脳天気でお願いします」
「いやいや、普通に賢くないし、脳天気でもないから!」