すべての花へそして君へ③
<OMAKE3>


 徳島のどこかのお屋敷で、忠犬の遠吠えのような叫び声が上がってから、いくつかの月日が流れたある日。


「ええぇええええええ!?」

「うるさい。近所迷惑」


 これまた同じように、とある魔王のお弟子さん宅で、ご主人様大好きな忠犬が、朝っぱらから似たような遠吠えをあげておりました。


「ちょ、ヒナタくんこれ見てよ! 見たらわたしみたいに叫びたくなるから!」

「それはないから安心して」

「いや別に不安でもなんでもないんだけども」

「それで? 何が来てたわけ?」


 机に広げられたいくつかの郵便物。その中に、一際輝きを放っているものがあったのだ。
 封を閉じてある印には、【W】の文字が。


「……ご主人様、開けてみてもよろし」

「『日頃は大変お世話になっております』」

「って読んでるしっ!」

「……」

「……ヒナタくん?」

「『このたび私たちは、結婚式を挙げることになりました。つきましては、誠に勝手ながら以下の日時までにお返事を承りたく……』」

「えっ!? まさかまさかとは思っていたけど、本当に……?」

「……トーマ、結婚するらしい」


 再び遠吠えをあげてしまった忠犬に、ご主人から容赦ない制裁が丸めた新聞紙で与えられました▼


「けど、……そっか。トーマさん結婚かあ。おめでたいねっ」

「……そうだね」

「……ヒナタくん? 喜ばしくない? 師匠取られて寂しい?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……」


 忠犬アオイは、ご主人ヒナタの複雑そうな顔の理由がわからず。
 気になったので、言い出してくれるのをいい子で待ってみた▼


「……あのさ。あんたは知ってる?」

「何を?」

「トーマの彼女。奥さん」

「(大学の時それっぽい人がいたような気がしなくもなかったけど……)」

「……オレ、知らない」

「だ、大丈夫。わたしも教えてもらってない」

「ていうか、誰も知らないんじゃない? 紹介、されてないんじゃない?」

「……え?」


 ま、まさか~。流石に、幼馴染みの三人には、ちゃんと紹介してるでしょー……。


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