すべての花へそして君へ③

彼の同級生、彼女の妹


 桜を卒業して一年とひと月。

 4月1日。


 ❀


「ヒナタくんハンカチ! ハンカチ持った!?」

「ベタな質問してこないでよ。持ってる持ってる」


 空は晴天。気温も良好。今日の占いは一位を奪取したし。……うんっ。絶対いいことあるはず!


「それはそうと、あんたの方は。時間大丈夫なの」

「うん。入社式が終わったくらいに行けば十分」


 一ヶ月前、ヒナタくんは高校を卒業。春からは大学へと進学が決まり、その準備で大忙し。
 自分の時よりも後輩の卒業に、あんなにも感動するなんて思ってもみなかったけれど。……その感動の余韻は数日間でさっさと終了。新生活に向け、なんやかんやと二人で準備をしていたら、一ヶ月なんてあっという間だった。

 ああでもない、こうでもない。そんな言い合いをすることも結構あったけれど、なんだかんだ二人で準備するのは大変でも楽しくて。だから、きっと時間が経つのが早かったんだと、わたしは思う。


「じゃあ、一瞬いい?」


 言うが早いか、靴を履いた彼はこちらを振り向いて。そして、ぎゅっと腕の中にわたしを招き入れる。


「ヒナタくん?」

「あと5秒」

「……どうかしたの?」

「あと10秒」


 まさか、増えるシステムだとは思わなかった。
 クスッと笑いながらぎゅっと抱き締め返していると、心なしかヒナタくんの元気がないように感じた。


「……つまんない」


 実は、数日前からこの調子なのだ。理由は簡単。大学に、わたしがいないから。
 初めは、そりゃもう嬉しかったよ。そんなにもわたしと、頑なに離れたくないのかって。可愛くて可愛くて仕方がなかったさ。どれだけ、むぎゅーっと抱き締めたかわからない。


「……ヒナタくん、寂しいのはわかるよ? オウリくんもいないレンくんもいない。チカにゃんだっていないもんね」

「家に帰っても一人だし」

「……週末には、帰ってくるよ?」

「わかってるよ」


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