すべての花へそして君へ③
シントさん、と。相変わらずの彼に半ば呆れながらそう返す。
アキくんが言い淀んでいたのは、もしかしなくともこれか。それは、彼がここにいる時点で確証へとすんなり変わった。
「……実は、皇でまたいろいろと問題が発生したんだ」
「え。……また?」
かくかくしかじか。
わー、また面倒な注文受けたのかこの人は。
「それはそれは、アキくんも大変だね」
シントさんに関しては、正直あまり大変だと思わなかった。寧ろ、一緒の大学で、一緒の学部で、常に付きまとわれると思うと……先行き不安でしかない。ここのブラコンは、かなり重度だから。
けれど、労いも込めた言葉に彼は再び難しそうな顔をする。
「……アキくん?」
「……すまない、日向」
そう言いながら彼が指差す方へと視線を流す。
一体、何をそんなに申し訳なさそうにしているのか。絶対悪いことしてないのに、何故そんなに謝るのか。
“俺は、やめとけって言ったんだが……一年前に”
弟に指を差された兄の胸元に、“入学おめでとう”と、書かれた飾り。渋っていたのは、これが原因らしい。
「本当にすまない、日向。俺は全力で止めたんだ。けど、……流石にいろいろと勝てなくて」
「……」
「口でもダメ。力業でもダメ。葵の名前を出しても、効果はなくて……」
「……」
「……日向? 驚いたよな。いつか言わないとと思ってたんだが、どうも言い出しにくくて」
「ぶはっ」
もうダメ。我慢の限界。
思わず噴き出してしまったオレに、みんなの視線が集まった。
「また、なんでそんなことに……ふっ、くくっ」
「え? いきなり日向くん笑い出したんだけど。何言ったの」
「兄に対する不平不満」
「ちょっと! アキには一つも迷惑掛けてないでしょ!?」
「けどこれから日向に掛けるから、弟の俺が頭下げて謝っておいた」
それから二人がやーやーと軽い口喧嘩を始めた横で、何とか笑いを治めようとしていると、オレのそばに三人がやってくる。
「朝からテンション高いな」
「本当にね」
「お前のことだって」
「え?」
「すごく楽しそうだよ、ヒナくん」
「はっ! さては! あたしのあおいちゃんと朝からいちゃいちゃしてたなこんちくしょー!」
「……」