すべての花へそして君へ③
 ❀


 アスリート張りに一升餅を持ち上げる妹の、一歳のお誕生日をお祝いしたのはお昼頃。


「それじゃあ、何もなければまた日曜日の夜帰ってくるから」

「今から仕事?」

「うん。でも大した量ないからすぐ終わるよ。そのまま今日は、ヒナタくんちにお泊まりしてくるね」

「迷惑掛けないようにね」


「はーい!」と返事をしながら、母の腕の中で眠そうにしている妹の頬を、つんつんと突く。……あああああ、何このもちもち感!


「涎出てるわよ、あおい」

「生理現象ですよ母上」


 妹を産んだすぐは、まだ体調を崩すことが多かった。母の場合家系も家系。体調を崩すと結構それが長く続いて、つらそうにしていることも多かったけれど。今では、外に出られる機会が増えてからは、随分と元気そうになった。


「お母さんが元気になったら、またみんなでどこかお出かけ行こう!」

「……ええ。楽しみね」


 それじゃあばいばいと、母と半分眠っている妹が手を振り返してくれた後、ビルの横に付けてあった車にさっと乗り込んだ。


「もっとお祝いしててよかったのに。妹ちゃん、誕生日だったんでしょ?」

「十分したので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」


 束の間の沈黙。それを破るように静かに車が発進した。


「そういえば、施設の子たちが寂しがってるってマザーが。最近なかなか行けてない?」

「ちょうど明日、ヒナタくんと一緒に行こうと思ってました」

「そっか。弟くんも、随分と懐かれたもんだねえ」

「それで? 今回はどうしたんですか?」

「……」

「……シズルさん?」


 信号に引っかっている間、車の中には無言が続いた。


「まずは、桜田門まで行くよ。指示はそこでだって」

「……わかりました」


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