すべての花へそして君へ③

彼女の仕事、彼の趣味


 大学一年目の秋。

 もうすぐ冬が始まる頃。


 ✿


「……九条さん、ご機嫌ですか?」

「あ、ミヤコさん。はい、今日金曜日なんで」

「それで喜ぶのは酒飲みの人たちだけだと思いますけど」

「いや、まだ18ですからオレ。普通に、学生も休みだから嬉しいんです」


 相変わらず真面目な彼女の指導もようやく終わり、今日はこれで上がり。帰ったらあいつはもう来ているだろうか。


「では、二十歳になったらまたお誘いさせてもらいますね」

「是非」


 実際は、今日帰って飲んじゃいますけど。
 それはもちろん内緒にしつつ、足早に会社を後にする。

 けれど、この時の彼はまだ、知りもしなかっただろう。
 まさか帰ったら、人生最大の危機が待っていることに――。


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