すべての花へそして君へ③
レモネードと温めの燗
午前中はその流れで五十嵐、桜庭をはじめ各家を訪問したわたしは、とあるカフェへと足を運んでいた。店内は木目調の家具や素敵な調度品で揃えられており、まるで森の中にいるよう。
そして視線をテーブルの上に移せば、そこには爽やかな香りのするハーブティーに、今にもこぼれ落ちそうな宝石のように輝くベリータルト。
「……じゅるっ」
思わず涎が出てしまった。
「ふふ。それじゃあいただきましょっか」
「はいっ!」
夕方までの間だが、只今より前々から念願だったアカネくんのお母様、ナズナさんとのお茶会スタートだ。
「わたしのためにお仕事切り上げてきてもらって申し訳ないです」
「いいのよ。ちょうどキリのいいところだったから気にしないで」
「……じゃあそのチーズスフレ、一口いただいちゃっていいですか? 気になってたんですー」
「じゃああたしも、そのタルトいただいちゃってもいいかしら」
そしてデザートに舌鼓を鳴らしながら、この素敵なお店のことや世間話をしているうちに、いつしか話題はアカネくんの将来についての話になっていた。
「アカネくんは美大へ行くことに?」
「そう。義父さんのお許しも出て、今では3代揃って夫のアトリエに入り浸ってることもしょっちゅう」
「道場の方はどうですか?」
「義父さんももう歳だし、あまり無理はさせられないから生徒さんは少ないんだけどね。それでも大変な時はおうりくんにも少し手伝ってもらっているのよ」
「あ! それはいいと思います! 二人ともしっかり基礎ができてる分、十分教える素質もありますし」
「あたしは、できればあおいちゃんにも顔を出してもらいたいなーって思ってるのよ?」
「あはは。残念なことに、わたしは誰かに何かを教えるということはあまり向いていないみたいで……」
「あら? そんなことはないと思うのだけれど」
首を傾げる彼女から逃げるように、わたしは苦笑しながら視線を外す。
残念ながら無理なんだ。本当はわたしも、アイくんみたいに「ミズカさんの跡を継ぐ!」とか、言ってみたいんだけど。
(止められたんだ、そのミズカさんにっ。『お前が指導者になろうものなら、生徒の中から死者が出る!』って。自分だって、桁外れに強いくせに!)
さすがに、いざとなったら加減はするけど、それでも普通の人よりも異常なのは確かだ。人のことを棚には上げられない。