すべての花へそして君へ③

 その話を聞いた目の前の人たちの反応は、三者三様。


「……っ」

 今にも噴き出してしまいそうなほどの最高の笑顔。


「……おかわいそうに」

 心ない哀れみの顔。


「……はあ」

 心底どうでもいい顔。


「……ちょっと。こっちは真剣に悩んでるんだけど」


 記念日の翌日。流石にあんなことを言われた後で、どんな顔をしていいのかわからなかったオレは、〈少し出てくる〉と書き置きし、堪らず家を飛び出していた。


「だからって、たまたま休日に里帰りしていたオレを呼び出すな。ゆっくりさせろ」

「え? 別に来なくていいけどって言ったじゃん」

「《来なかったらあのことあいつに言うから》とか脅しだからな」

「……ねえカオル。レンがなんか言ってるんだけど、あのことって何?」

「さあ? ぼくは存じ上げませんねえ~」

「……ちょっと待て。もしかしてオレは、わざわざ来なくていいものに来てしまったというのか」

「ちょっと。来なくていいとか酷くない? 悩んでるのは本当なのに。知らないでしょ、煎餅食べてる音超怖かったんだから」

「知るか。なんだ煎餅の音が怖いって」


 そして、この三人に緊急招集をかけたというわけだ。レンがちょうど帰省してたのは知っていたし。カオルも、専門学校は今日休みだし。アイは、まだずっと笑い堪えていて一言も喋ってないけど、農家だし。まだお手伝いだし。ミズカさん相手だから融通きくし。


「ブハッ」

「「「あ、やっと出た」」」

「な、何それ。……く、九条くんあおいさんに、そんなこと言われたの?」

「だったら何」

「それってもう、完全に振られるフラグ立ってるじゃん! とうとう来たよ俺の時代! 昨日だって、満面の笑顔で『大好きだよ』って言ってくれたもんね!」

「いや、それ。ただ誕生日だっただけじゃん。ああ、おめでとう」

「あ。そうでした。おめでとうございます、アイさん」

「おめでとうございます」

「ちょっと。ついでみたいに言わないでよ。ちゃんと祝って」

「だいたいね、人の誕生日の次の日を記念日なんかにするから、バチが当たったんだよ」


 とか言ってるご機嫌斜めの彼の目の前に、サプライズで用意したケーキが運ばれてくると、あっという間に全面協力体制になってくれたけれど。


「……そもそもなんだけどさ」

「何」

「記念日、何かした?」

「映画観た」

「いやいやいや、そうじゃなくて。……もっとこう、特別な何かというか」

「そりゃ、毎年してるよ」


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