すべての花へそして君へ③
「願望って言うことは、大学の時もしたかった?」
「んーどうだろう。その時は、スーツのヒナタくんが珍しくてはしゃいでたからな。それを堪能するだけで他のことは考えてなかったや」
「堪能してたんだ」
「成人式の時もね。スーツ姿久々だったからテンション上がって。まるで、我が子を見送る母気分で泣きそうだったよね」
「な、何故……」
「こんなに大きくなって……って。ちょっと感動した」
シュルシュルと、首に回して結んでいく間。そんなくだらない会話をした。「オレは、あんたの息子になった覚えは更々ないんだけど」と、少し拗ねたヒナタくんに思わず笑いが洩れる。
……そういうところなのに。でもきっと、いくつになっても変わらないんだろうな。
そんな可愛い彼にまた、そっと笑みをこぼした。
「そう考えたら、就職活動でスーツを着るようになってからかも。初めの頃は、やっぱり我が子を見守る思いで感動の嵐だったけど」
「だから、あんたの息子じゃねえって……」
「昔ね、本当に昔。見たことがあるんだ」
「……何を?」
「お父さんの、曲がったネクタイを直してたお母さん。だから、ヒナタくんのスーツ姿見る度それ思い出したんだ。ちょっといいかもって」
「割とベタだね」
「そう? 相当ベタだと思うけど」
「せっかく気遣ってあげたのに」
別にそこは、気を遣うところでも何でもなかったのに。
クスクスと、再び笑いを洩らしながら、最後の仕上げにきゅっとネクタイを締めようとしたところを、何故かヒナタくんの手によって止められてしまった。あ、もしかしたら結び方間違えてたのかも。
確認のために見上げたところへ、何故かそれも止めるようにヒナタくんの唇がわたしの口をそっと塞いだ。急な出来事に、思わず目を瞠る。
「……いきなり、どうしたの……?」
「せっかく気を遣ったのに」
「え? いや、うん。さっきも言ってたけど……」
「カナタさん」
「え? ……お父さん?」
「その時あおいがいなかったら、きっと玄関先でこんなふうにいちゃついてただろうね」
そう言うが早いか。再び唇を塞いだヒナタくんは、わたしのスーツやブラウスのボタンにまで手を伸ばしてくる。
慌てて止めようとした時には、もうだいぶ遅かった。……いつも思うけど、どんな早業なの。
「ちょ、……ひなたくん」
「なんかさ、どうしようもなく愛おしく思えたんだよね」