すべての花へそして君へ③
すっくと立ち上がった彼は、繋いだままの手に力を込めた。
そして、空いた方の手にポンッと咲いた一輪の薔薇。それを、持っていた薔薇の花束の中にそっと加えた。
「これで完成」
「白だね」
「うん。なんか、赤よりも白って感じなんだよね」
「……そっか」
きっとそれは、君がわたしにくれた花だから。
「……ありがとう、ヒナタくん」
「花束の数、数えた?」
「え? ううん」
「数えて。ちなみに、花びらの絨毯用に50本使ったから、それも合わせて」
「え? ……でも」
「いいから。もう時間気にしないで大丈夫だから」
ああ、やっぱり時計を見たのは気のせいじゃなかったんだなと。もしかして、この薔薇の花束を待っていたのだろうかと。
そう思いながら、喜びを噛み締めながら、わたしは腕の中にある花束を、一つずつちゃんと数えていった。
何度も何度も確認をした。きっと、間違ってないと思う。
恐る恐る、わたしは口を開いた。
「58本、だったと思う」
「合わせたら?」
「108本?」
「そうだね」
「……ヒナタくん?」
「……てっきり、知ってるんだと思ってた。その顔は知らないんだね」
「え? な、何を……?」
「花言葉」
108本の薔薇の花束。
花言葉は、『結婚してください』って意味。
「さっきの返事、あんまり聞こえなかったから、もう一回聞いとこうかな」
「……ふふっ。そうだった!」
一体、今日までどんなことを考えながら過ごしてきたのだろうか。
道明寺の事件の時も思ったけど、ヒナタくん。わたしに隠して事を進めるのが上手過ぎるよね。これからまたサプライズされても、きっと気付くことはないんだろうな。
いろいろ考えた……か。やっぱりそのいろいろが気になっちゃうけど。
でも今は、軽々と抱えられてしまったこの小さな体で、有りっ丈の感謝と愛を贈ろう。
「……ヒナタくん。大好きだよ」
六年前。わたしは君に言ったね。
「わたしが、世界で一番の幸せ者にしてあげるから。……覚悟しといてね?」
そして、君はわたしに言ったね。
「オレが、世界でも宇宙でもない。誰よりも何よりも、幸せにしてあげる。……だから、誰よりも何よりも幸せになろう」
ずっと聞きたかったんだ。
似た言葉じゃない言葉。紛い物でもない言葉。
……ずっと、言いたくて言いたくて仕方がなかったんだ。
正真正銘の、愛言葉。
「オレの、……お嫁さんになってください」
「……はいっ。よろこんで」