すべての花へそして君へ③
再び不安で揺れる声に、ガバッと上がった彼の顔は驚き一色。のち、何があったのか、一人で笑いを堪え始めた。
「いやいやごめん、あおい。そうじゃないんだよ」
わかった、姿勢が悪かったんだと。一人納得した様子で立ち上がった彼は、わたしの腕を引き、リビングにあるソファーを背もたれに腰を下ろし、足の間にわたしを閉じ込めた。
キスをしてくれる間、頬を包み込んだが、やさしくてあたたかかった。
「……そうじゃないって?」
「……オレさ、少し寂しかったんだ」
え、と。驚くわたしに小さく笑いながら。彼は少し紅潮した頬を何度も何度も撫でた。
「最近さ、ちょっとズレてたでしょ」
彼が敢えてそう言ったのは、昔ほど擦れ違っていたわけではなかったからだろう。ズレていたのは、いわゆる生活のリズムだ。
「別に、仕事するのが悪いとか言うんじゃないから。勘違いして欲しくなかったから、ずっと言えなかっただけだし。応援したいじゃん普通に。仕事の話聞くの、オレ結構楽しみにしてたんだよ」
「……うん」
「けど、そう思う反面やっぱりちょっとはオレのこと構って欲しいと思うわけで。一緒にいる時間が少ないと思ったら余計ね。特に夜なんかは」
「……それについては、誠に申し訳なく思ってます、ハイ」
「だからか知んないけど、やっぱり一緒にご飯食べてる時間が最近は特に好きだったんだよ。美味しそうに食べてるの、止めたくなかったし……って、後出しで出したら言い訳みたいか」
「……ううん。そんなことない」
首を振るわたしに嬉しそうに頬を緩めた彼は、腰に腕を回しそっと引き寄せた。
「オレが謝りたいのは二つ」
「なに?」
「一つは、あまりにも寂しくなった時に、さっさと子どもでも作ってあおいから仕事の時間を奪ってしまおうかなんてことを、ちょっとでも思ってしまったこと」
「ひなたくん……」
「もう一つは、せっかく乗り気だった結婚式が、また延期になりそうだから悪かったなって」
「……ううん。そんなことないよ」
だって、式よりもまずは、授かったこの命を、わたしもしっかり育てていってあげたいなって。ヒナタくんと同じで、そう思うもの。