すべての花へそして君へ③

「けど、やっぱり関係してるのかもね。わたしも妊娠中いっぱい食べてたからか、子どもたちよく食べるんだよ」

「そうでしょうね。いいお手本が目の前にいるし」

「いやー、これで子どもまで大食いになっちゃったら、食費が嵩んで家計が火の車だよー」


 ああ、やっぱり流石に、自分のことは大食いだと認めてるんだねと。またキサちゃんと目が合ったから、多分同じこと考えてたんだと思う。


「あたしのことはいいんだよー。それより、何か子育てエピソードとかないのー?」


 焼きたてのワッフル生地にチョコがちりばめられ、その上から温かい抹茶のソースがかけられた、妊婦ユズちゃんへの特製デザート。この、見てるだけで食欲をそそる感じ。チカくん流石だぜ。


「エピソードかあー」

「エピソードねえ……」

「今後の参考に是非!」


 パクパクパクと、三口でワッフルをほとんど平らげてしまったその威力に、わたしとキサちゃんは目を合わせ、心の中でダメだこりゃと呟いた。


「エピソードとはちょっと違うんだけど、“母は強し”ってよく言ったりするじゃない?」


 それが、ちょっとわかったような気がするんだと、キサちゃんはチカくんが点ててくれた抹茶を一口飲む。


「子どもを生んだ時にさ、大事にしなきゃ、守らなきゃって思ったの。今になってようやく、親の気持ちがわかるようになったっていうか」

「あ。そういえば西園寺の皆さんもお元気?」

「怖いぐらい元気。今度はいつ来るんだーって、初めての孫ひ孫に大はしゃぎだよ」

「そっかそっかー」


 けどね、そんなことは今はどうでもいいんだよ、と。
 御抹茶を一気に飲み干したキサちゃんの目は、完全に据わっていた。


「強くなったからかどうか知らないけどね、あんなにも夫が頼りないとは思わなかったわ」

「「え」」

「いい加減な人だってことは、それはもう昔から嫌というほど知ってるけど、それでもちゃんとしたところではビシッとできてたのよ今までは」

「お、おう……」

「これはこれは、鬱憤が溜まっておられるようで……」


 キサママ曰く。子育てを任せても、一時間と持たずヘルプの連絡が入ってくるんだとか。


「子どもが生まれる前までは、そりゃいろいろ助かったところも多かったけどね」

「あ、でもそれすごくよくわかるかも」


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