すべての花へそして君へ③
プロポーズは何度でも
「それで? その時の子が今の子ってわけか」
「そうなんだよー。トイレの前で待たれてると思ったら出るもん全然出なくてー」
「出るもん以前の問題で、検査結果すぐにわかるものじゃないでしょ」
「ふふ。じっと待ってられなかったらしいよ?」
「すみませーん! あんみつと、白玉ぜんざいと、あとほうじ茶パフェくださーい!」
え。ちょっと待ってユズちゃん。それは、いくら何でも食べ過ぎなんじゃなかろうか。妊婦は体冷やしたらダメなんだぞ。
「流石に全部は食べないよー。二人からちょっとずつもらうの」
あ。そう。どれかはわたしので、どれかはキサちゃんのなんだね。成る程。流石、大食いを極めてる人の考え方は違うわ。
そんな話をしていたわたしの、妊娠が発覚したのはもう一年半以上前の話。この初夏に一歳を迎える我が子をパパに預け、今日は久し振りに女子会を開いていた。今頃、この日のために休みを取ってくれた父と母。お祖父ちゃん。ヒイノさんとミズカさんと一緒に、頑張ってみてくれているだろう。
ま、正直男共はあまり当てにしてないけど。夕方になったら、わたしよりもしっかりした妹が学校から帰ってくるし。安心安心。
届いた三つの中から、わたしはほうじ茶パフェを選んだ。
「にしてもまさか、双子ちゃんが生まれてくるとはね」
「パパが双子だったからとか、そういうの関係あるのかな?」
「え? どうなんだろう、その辺はあんまり考えたことなかったな」
あの頃の懐かしい記憶を思い出す度に、彼のいろんな表情まで思い出してしまうので、ついつい顔が綻んでしまう。
でも、そういえばヒナタくん。双子だってわかった時ちょっと嬉しそうな顔してたっけ。
(多分あれは、男の子と女の子、両方が生まれてきてくれたら嬉しいなって顔だったな)
ま、そんな彼の願いは無事、神様に聞き届けられたみたいだけど。
パフェを口に運びながら、横目でチラリとユズちゃんの方を見てみる。
「んー。ねえちかくん。あったかいデザートとかってあるー?」
「……なんか作ってやっから。ちょっと待ってろ」
「わあーい! ありがとおー!」
「「………………」」
昔、チカくんがわたしに話してくれたとおり。実はこの小料理屋、夕方まではこっそり隠れて御茶屋さんをしておりまして。チカくんが夜の準備の間ほぼ貸し切り状態で、わたしたちはゆっくり寛がせていただいておりました。
本当、ちょっとした隠れ家みたいだ。何かあったら、ここに逃げ込んでこよう。
(……って、今はそれはいいんだって)
わたしとキサちゃんは、ゆっくりと視線を交わし、そして恐らく同じようなことを思っただろう。
「わたしの掃除機なんか、手も足も出ないぜい……」
「ん? 何か言った?」
「見てるだけで胃がもたれそうって言ったのよ」
「えー? こんなのまだまだ序の口なのにいー」
あっという間にぺろりと平らげてしまったらしいぜんざいは、跡形もなく器から消え去っていた。きっと、またチカくんが出してきてくれる特別デザートも、すぐに飲み込まれてしまうのだろう。
吸引力は劣らない。ううん、寧ろ吸うごとに力を増していってるように思えた。