すべての花へそして君へ③
君と始めるプロローグ



 たくさんの花であふれた物語

 長い長い物語の

 その本には

 へたっぴな話しか描かれていませんでした


 分厚い本を閉じ

 ふうと小さく息をつきます


 本はここで終わり

 どこにも続きの本などありません



 …………よくわかりません

 どうしてこんな結末になったのでしょう


 ハッピーエンド…………?

 う~ん

 やっぱりよくわかりません



 もやもやした気持ちのまま

 ごろんと本を抱えて寝っ転がります


 その変な本を

 両手で上へと掲げ

 もう一度よく見てみました


 …………けれど

 そうしたところで

 何も変わるわけありません



 何の気なしに

 その分厚い本を

 逆さまに読んでみました


 けれど

 何の変化もありません

 ちょっと読みにくくなっただけです



 それから気まぐれに

 本のカバーを

 外してみることにしました


 外したところで

 何も変わるわけありませんが


 …………変わるわけないと

 思っていました





 この本やけに分厚いなあと思って

 よく見てみると

 一枚の紙が何重にも折り重なって

 たくさんのページができていたのです


 表のページに描かれていたのは

 よくわからないお話でした


 もしかして…………。



 そう思って

 カバーで覆われていた

 やけに分厚いこの本を

『背中側』から読んでみようと思いました



『背』だったところは

 やはり

 留められてはいるものの

 頑丈には留められていませんでした



 まるで

 この時を待っていたかのように

『背』だったところののり付けは

 簡単に剥がれていきます



 さあ

 開こう――――。



 そう思って『背』の方から

 何重にも折り重なるページに手を伸ばしました


 けれど

 そのページたちはまるで

 見られることを拒絶するかのように

 誰にも見つからないように

 ピッタリとくっついていて

 少しの力では開いてくれませんでした



 大丈夫。

 破いてしまうわけではないよ。

 大丈夫。

 あなたが大好きだから

 見せて欲しいんだよ。



 本を撫でていると

 何故かそんな言葉がこぼれ落ちます


 そんな言葉を掛けていると

 今まで

 あんなにも固く閉じられていたページが

 パリっという音とともに

 開いていくではありませんか



 見せてくれて。ありがとう。


 そんな感謝の言葉が自然と出てきました

 本に感謝したのなんてはじめてです


 けれど

 なんだか

 とっても温かい気持ちになりました


 不思議だなあ

 と思いながら

 小さく笑いました



 そして一度

 ゆっくりと息を吸ったあと


 その

 固く閉ざされていた本のページを


 不安と期待を入り混ぜながら

 覗いてみることにしました――――。





 そこに描かれていたのは

 隠していた

 隠していたかった

 物語



 この本の

 長いながい


 本当の物語の

 はじまり

 でした









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