すべての花へそして君へ③

 嫌な予感がしたんであろうミズカさんは、まるで錆びたロボットのように、首をカク……カク……と動かした。
 その彼の視線の先にあるのは、勿論わたしの満面の笑顔。もう“してやったり”というか、“にやり”に近かったけど。


「あ、あおい。おま、なんで……」

「それはこっちが聞きたいんですけど。ほれ白状せんかい。こっちはさっきからムカムカしてしょうがないんじゃい」

「は? なんでだ」

「なんで、わたしも混ぜてくれないんですか」

「へ?」

「ズルいっ! 二人だけミズカさんの特訓受けてるなんてっ! わたしだって一緒に強くなりたーい!」

「……すんません。もう必要ないと思うんですけど」

「そんなことないですよ! わたし、体力ってそんなにないですし! まだまだ強くならないといけないところが――」


 そう言ってたら、ミズカさんに口を塞がれた。少し興奮気味で、声が大きかったらしい。
 父母ヒイノさんの方を慌てて確認してみるけれど、起きた様子はない。ぐっすりとよく眠っている。二人一緒に安堵の息を吐ききったあと、小さく謝罪して話を戻す。


「確かに、お前の体力は並みよりちょい上だ。そのない体力を高い技術で補ってるって感じだな」

「でしょ? だからわたしも混ぜて欲しいの」

「さっきも言った。もう、お前には必要はないと」

「で、でも……」


 ミズカさんに頭をぐいーっと押さえ付けられたあと、これでもかと言うほどぐしゃぐしゃにされた。


「ちょっくら顔洗ってくっから、玄関で待ってろ」

「え!」

「連れてかねえぞ」

「えー……」

「まあ、なんでこんなことしてんのかだけ教えてやるから。だから、ちょっと待ってろ」

「……わかった」


 暫く渋ったわたしに、ミズカさんはふっと笑った後、洗面所の方へと行ってしまった。立ち上がった足は、玄関までの道程さえ遠く感じるほど、とても重い。


「あおいちゃん、どうか内緒にしておいてあげて欲しいの」

「え? ヒイノさん、いつの間に……」


 彼女が起きてしまったのに気が付いたから、ミズカさんは口を塞いだのかもしれない。
 机に突っ伏して寝ていたヒイノさんは、向かいの席に座るようにわたしを促した。


「夜も遅いしわたしたちも反対してたの。でも、どうしてもお願いしますって言われたら断れなくって。だから、次の日がお休みの日。あの人の予定が入っていなければって約束でしてるのよ」


 それは、一体いつからのことなんだろう。


「あら、知らなかった? ひなたくんはあの時……はじめてここに来た時から、ちょくちょくあの人に見てもらってるのよ」

「えっ」

「それでも昔は滅多に来なかったけれど、野菜を送ったお礼に、何かの手土産と一緒に稽古をつけてもらっていたわ。……ひなたくんは、ずっと前から、強くなろうとしてるのよ」

「…………」


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